貸倒損失の認識基準と証憑要件|SAT対応の観点から
1. はじめに
貸倒損失は、企業会計において重要テーマであり、税務調査でも確認ポイントが多い領域です。メキシコではSAT(税務当局)が証憑要件を厳格に確認します。基礎編として、会計と税務の考え方の違い、必要な証憑の勘所を整理します。
2. 会計上の貸倒損失の認識(NIF)
- 認識基準:回収不能と合理的に判断できる場合に費用処理(NIF C-3)。
- 典型事由:取引先の破産・清算、長期延滞、法的回収手続の開始など。
- ポイント:判断過程(督促〜法的対応)の証跡を残す。
3. 税務上の要件(ISR法)
- 損金算入の根拠:貸倒損失の損金算入要件は所得税法で規定(所得税法 第27条・第31条)。
- 債権規模別の目安:
- 30,000ペソ以下:合理的理由と証憑を保持すれば貸倒処理が認められるケースあり(所得税法 第27条)。
- 30,000ペソ超:訴訟・債権放棄契約等の法的手続やSAT通知が求められる(所得税法 第27条・第31条)。
- CFDIへの言及:未回収に伴いCFDI(電子請求書)のキャンセルが必要となる場合があるため、運用ルールを確認(SATガイド)。
4. 証憑と運用のポイント
- 保存必須:契約書、請求書(CFDI)、受領/納品エビデンス、督促状・メール、法的書類。
- プロセスの記録:回収努力のタイムライン(いつ・誰が・何を実施)が重要。
- 会計と税務のタイミング差:会計は「合理的な回収不能」で費用化できても、税務は要件充足後に損金算入(差は申告で調整)。
5. 税務調査で指摘されやすい典型例
- 督促状・回収記録(メール・内容証明など)の保存がない。
- 高額債権にもかかわらず訴訟や債権放棄契約などの法的手続きを取っていない(所得税法 第27条・第31条)。
- CFDI(電子請求書)を未回収に合わせてキャンセルしていないのに貸倒処理している。
ひとこと:「会計上の判断」と「税務上の損金算入要件」を分けて考え、要件を満たすまでの証憑づくりを一歩ずつ残すのがコツです。
6. CFDIキャンセルに関する基礎メモ
貸倒関連でCFDIのキャンセルが必要となる場合、概略は以下のイメージです(詳細は実務編で解説予定)。
- SATポータルにログインし、対象CFDIを選択。
- キャンセル理由を未回収等に該当するオプションから選択。
- キャンセル実行後、控え(確認番号・日時)を保存。
基礎編では「キャンセル要否を確認する」「控えを残す」の2点を押さえましょう。
まとめ
貸倒損失は、会計基準(NIF C-3)による回収不能の判断と、税務要件(所得税法 第27条・第31条)の充足を切り分けて考えるのが重要です。証憑の整備(督促〜法的対応、CFDIキャンセルの要否確認)を怠らず、税務調査で指摘されやすい典型例を避ける運用を心がけましょう。
本記事は「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース
- NIF C-3(取引先勘定)
- メキシコ所得税法(Ley del ISR 第27条・第31条)
