解雇補償金制度(Indemnización)の仕組み

はじめに

メキシコにおける「会社都合解雇」のコストは、日本とは比較にならないほど高額です。不当解雇(Despido Injustificado)として処理する場合、憲法で定められた補償金に加え、勤続年数に応じた手当やバックペイ(未払い賃金)が発生します。本記事では、経営者が把握すべき補償金の構成要素と、正しい計算ロジック(SDIと上限キャップ)について解説します。

サマリー

  • 会社都合解雇の基本セットは「憲法上の補償(3ヶ月分)」+「勤続手当(Prima de Antigüedad)」である。
  • 補償金の計算基礎には、給与に手当や賞与を組み込んだ「統合日給(SDI)」を用いる(LFT第84条)。
  • 勤続手当(Prima de Antigüedad)には、「最低賃金の2倍」という計算上限(キャップ)が存在する。
  • 解雇補償金には、勤続1年につき90 UMAの非課税枠(ISR免除)が適用される。

詳細

1) 解雇時に支払うお金の2階建て構造

退職・解雇時に支払う金銭は、大きく2種類に分けられます。

  • ① 清算金(Finiquito):
    辞める理由に関わらず、働いた分として必ず支払うもの。
    (未払い給与、比例配分のAguinaldo、比例配分の有給休暇など)
  • ② 解雇補償金(Liquidación / Indemnización):
    会社都合(不当解雇)の場合にのみ、①に上乗せして支払うペナルティ。

2) 解雇補償金の3大要素

実務上、以下の3つが計算対象となります。

項目計算内容法的根拠
①憲法上の補償
(Indemnización Constitucional)
統合日給(SDI)の90日分(3ヶ月分)憲法123条
LFT 48条
②勤続手当
(Prima de Antigüedad)
勤続1年につき12日分
※ただし計算単価は「最低賃金の2倍」が上限
LFT 162条
LFT 486条
③20日分の補償
(20 días por año)
勤続1年につきSDIの20日分
※法的には「復職拒否時」の支払いだが、実務上の示談金として加算されることが多い。
LFT 50条

3) 重要な計算ルール:SDIとキャップ

  • 統合日給(SDI)とは:
    基本給だけでなく、Aguinaldo(年次賞与)、休暇手当、食券、家賃補助などを含めた「実質的な1日あたりの稼ぎ」です。①(3ヶ月分)と③(20日分)はこのSDIで計算します。
  • 勤続手当の上限キャップ(重要):
    ②(勤続手当)のみ、計算単価に上限があります。どんなに高給取りの社員でも、「最低賃金の2倍」(または地域のUMA×2倍で運用されるケースもあり)で計算します。ここをSDIで計算すると過払いになります。

誤解と理解

  • 誤り:「解雇補償金は全額課税対象だ」
    → 所得税法(LISR第93条)により、「勤続1年につき90 UMA」までは非課税です。手取り額の計算時に考慮が必要です。
  • 誤り:「勤続15年未満の人には、勤続手当(Prima de Antigüedad)を払わなくてよい」
    → 自己都合退職の場合は15年以上が必要ですが、会社都合解雇の場合は勤続年数に関わらず(例:1年目でも)支払い義務があります。
  • 誤り:「裁判になるとバックペイ(未払賃金)が無限に増える」
    → 2012年の改正で、満額のバックペイは最大12ヶ月までに制限されました(以降は利息のみ)。とはいえ、1年分の給与支払いは巨大なリスクです。

チェックリスト

  • 解雇シミュレーションにおいて、「3ヶ月分」+「勤続手当」+「20日分(交渉用)」を予算化しているか。
  • 勤続手当の計算において、「最低賃金の2倍」の上限キャップを適用しているか。
  • その他の補償(3ヶ月分・20日分)は、基本給ではなく統合日給(SDI)で計算しているか。
  • ISR(所得税)の非課税枠(90 UMA × 勤続年数)を正しく控除しているか。

まとめ

解雇補償金は計算ロジックが複雑で、項目の取り違え(SDIかキャップ付きか)が大きな金額差を生みます。特に勤続手当の上限や税務メリットを正しく理解し、適正な金額で交渉・解決を図ることが、無用な労働裁判を避ける要諦です。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • メキシコ連邦労働法(LFT)第48条・第50条・第84条・第162条
  • メキシコ所得税法(LISR)第93条(退職所得の非課税)