給与計算の仕組み|控除項目と法定福利の全体像
はじめに
メキシコにおける給与計算(Nómina)は、単に従業員の口座に現金を振り込むだけではありません。所得税(ISR)や厳格な社会保険(IMSS)の控除、そして日本よりも重い「会社負担コスト」を正確に処理する必要があります。本記事では、給与明細の裏側にある構造と、経営者が認識すべきコスト感覚について解説します。
サマリー
- 給与計算は「総支給額 − 法定控除(ISR・IMSS等)= 手取り」の基本式で成り立つ。
- 従業員負担の控除に加え、会社側には給与額の約30%相当の法定福利費(IMSS・INFONAVIT・州税)が発生する。
- 住宅基金(INFONAVIT)は、全従業員に対し会社が5%を拠出する義務がある(ローン返済とは別)。
- すべての給与支払いで電子給与明細(CFDI de nómina)の発行が税法上義務付けられている。
詳細
1) 従業員負担(給与から引かれるもの)
従業員の手取り額に影響する主な控除項目です。
- 所得税(ISR):
累進課税(LISR第96条)に基づき源泉徴収されます。低所得者には「雇用補助金(Subsidio para el Empleo)」が適用され、税負担が軽減またはゼロになる場合があります。 - 社会保険料(IMSS)個人負担分:
給与水準に応じますが、概ね給与の2〜3%程度が控除されます。 - INFONAVIT(住宅ローン返済):
従業員が公的住宅ローンを利用している場合のみ、通知された金額を天引きします。
2) 会社負担(給与以外に会社が払うもの)
経営計画上、最も重要なのがこの「Carga Social(社会的負担)」です。額面給与に対し、約25%〜35%の追加コストを見込む必要があります。
- IMSS(社会保険)会社負担分:
病気・出産、労災、障害・生命保険など。従業員負担よりも圧倒的に比率が高く設定されています。 - Retiro / Cesantía y Vejez(退職・老齢年金):
IMSSの一部として納付しますが、会社負担が大きく、近年料率が段階的に引き上げられています。 - INFONAVIT(住宅基金)拠出:
従業員のローン有無に関わらず、給与の5%を全従業員分、会社が拠出する義務があります。 - ISN(州給与税):
州によって異なりますが、給与総額の約2〜3%が課税されます。
3) 証憑:CFDI de nómina
メキシコ国税庁(SAT)に対し、給与支払いの都度、XML形式の電子インボイス(CFDI)を発行・スタンプ(Timbrado)する必要があります。これが損金算入の必須条件です。
誤解と理解
- 誤り:「メキシコの社会保険料は日本と同じ労使折半だ」
→ 日本と異なり、メキシコでは会社負担の比率が圧倒的に高い設計になっています(会社:個人=9:1に近いケースも)。 - 誤り:「INFONAVITは住宅ローンを借りている人だけの話だ」
→ 全従業員に対して5%の会社拠出義務があります。これは実質的な人件費コストです。 - 誤り:「給与明細はPDFで渡せばいい」
→ 税務上はPAC(認定業者)を通じて認証されたCFDI(XML)の発行が本体であり、PDFはその印字イメージに過ぎません。
チェックリスト
- 給与計算ソフトの設定は最新のISR税率表・UMA・最低賃金に基づいているか。
- 人件費予算を組む際、給与額に+30%程度の会社負担(IMSS/INFONAVIT/ISN)を見込んでいるか。
- INFONAVITの「会社拠出(5%)」と「個人ローン返済控除」を区別して管理しているか。
- 毎回の給与支払い後に、遅滞なくCFDI de nóminaを発行しているか。
まとめ
メキシコの給与実務は、複雑な控除計算と重い会社負担が特徴です。「額面給与」だけでコストを考えると、実際のキャッシュアウトとの乖離に苦しむことになります。構造を正しく理解し、適切な予算管理を行いましょう。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- SAT(国税庁):給与CFDI発行ガイド
- LISR(所得税法)第96条
- IMSS(社会保険庁)公式サイト
