移転価格税制の全体像|国際取引における基本義務

はじめに

メキシコの移転価格税制は、グループ会社どうしの取引が「第三者と同じ条件で取引しているか」を確認する仕組みです。
例えば、親会社から商品を仕入れて販売するとき、その価格が「普通の取引」と比べて適正かどうかをチェックする必要があります。
この記事では、難しい用語をできるだけ避けて、基本的な考え方と準備する書類を整理します。

サマリー

  • 対象:関連会社との取引すべて(商品・サービス・ロイヤリティ・融資など)。
  • 考え方:第三者との取引と同じ水準になっているかを検証。
  • 方法:いくつかの方法から、その取引に一番合うものを選んで比較。
  • 文書化:必要に応じて「自社の説明書」「グループ全体の説明書」「各国ごとの報告書」を作成。
  • 証拠の一貫性:契約書、請求書(CFDI)、会計記録、申告内容が同じ内容でそろっていること。

対象と基本

「関連会社」とは、親会社や子会社、役員を通じてコントロールできる会社などを指します。

対象取引は、商品の売買、サービスの提供、特許やノウハウの使用料、貸付や保証など広範囲に及びます。

基本の考え方は「もし第三者と同じ条件で取引していたらどうなるか」を基準にすることです。

代表的な検証方法

  • 価格比較法(CUP):同じ商品やサービスの外部の価格と比較する。
  • 再販売価格法:仕入れた商品を売るとき、一般的な販売会社がどのくらい利益を取っているかを基準にする。
  • 原価加算法:かかったコストに、通常の会社が上乗せする利益分を足して価格を決める。
  • 取引純利益法(TNMM):最終的にどのくらい利益が出ているかを他社と比べる。
  • 利益分割法:親会社と子会社が一緒に価値を生む場合(例:共同開発)、その利益を分ける。

必要な文書

  • 自社の説明書(ローカルファイル):自社の業務内容、役割、価格の根拠をまとめたもの。
  • グループ全体の説明書(マスターファイル):グループ全体の事業や資金調達の仕組みをまとめたもの。
  • 各国ごとの報告(CbC報告書):グループ全体の売上や利益を国ごとに集計したもの(大企業グループのみ対象)。

これらは会社の規模や条件によって提出義務が決まります。

具体例

例:メキシコ子会社が親会社から商品を仕入れて国内で販売するケース

  • 子会社は販売活動と在庫管理を担当。
  • 検証方法は「再販売価格法」や「利益率を比べる方法(TNMM)」がよく使われる。
  • 他の会社のデータと比較して、利益率が妥当かを確認。
  • 契約書・請求書(CFDI)・会計帳簿の数字を合わせて記録し、文書に残す。

よくある誤解と正しい理解

  • 誤解:グループ内だから自由な価格でよい
    正しい理解:第三者と同じ条件であることを証明する必要がある。
  • 誤解:利益率比較(TNMM)だけあれば十分
    正しい理解:取引に最も合う方法を選ぶことが前提。
  • 誤解:書類は当局に求められたら作ればよい
    正しい理解:毎年整えておくことが義務。準備不足は大きなリスク。

チェックリスト

  • □ どの会社が「関連会社」に当たるか洗い出したか?
  • □ 各取引について、どの検証方法が合うか仮に決めてみたか?
  • □ 契約書・請求書(CFDI)・会計記録が同じ数字でつながっているか?
  • □ 自社説明書・グループ説明書・国別報告書の対象か確認したか?

まとめ

移転価格制度は、関連会社間の取引を「第三者と同じ条件」に近づけるためのルールです。
取引にあった方法で価格を検証し、必要な書類をそろえ、契約や請求書・会計の数字を一致させることが大切です。
基本を押さえておけば、税務調査の際にもスムーズに説明でき、不要なリスクを避けられます。

本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。

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リソース

  • Ley del ISR:179条・180条・76条・76-A条
  • CFF:29条・29-A条(CFDIの要件)