社会保険料の会社負担割合と計算基礎
はじめに
メキシコの人件費予算を組む際、給与額面の「約30%」を会社負担の社会保障費として見積もるのが通例です。しかし、2023年の年金制度改革により、この負担率は2030年に向けて段階的に引き上げられています。本記事では、計算の基礎となるSBC(算定基礎給与)の概念と、激変する会社負担コストの構造について解説します。
サマリー
- 社会保険料は「SBC(基本給+手当等の統合給与)」を基礎に計算される(LSS第27条)。
- 計算の基礎となるSBCには、「25 UMA」という上限キャップが存在する。
- 年金(RCV)の会社負担率は、2023年から2030年にかけて最大3.15%から11.875%へと段階的に激増する。
- 住宅基金(INFONAVIT)として、全従業員に対しSBCの5%を会社が拠出する義務がある。
詳細
1) 計算の基礎:SBC(Salario Base de Cotización)
IMSSの保険料は、額面給与そのものではなく、SBC(統合賃金)をベースに計算します。
- SBCに含まれるもの:
基本給、Aguinaldo(年次賞与)、休暇手当、家賃手当、食券(上限超え分)など、「労働の対価」として定期的に支払われる全てのもの。 - SBCの上限(キャップ):
高額所得者(駐在員等)であっても、SBCの上限は「25 UMA(約2,700ペソ/日)」と定められています。これを超える給与部分には保険料がかかりません。
2) 会社負担の3大コスト
企業が負担するコストは主に以下の3つで構成されます。
| 種目 | 負担内容 | 備考 |
| ① 医療・労災等 (IMSS本体) | 病気、怪我、出産、保育所などの運営費 | 労災保険料は企業の事故率(等級)により0.5%〜15%と大きく変動する。 |
| ② 年金・失業 (RCV) | 老齢年金、退職時の失業保険部分 | **【重要】**2030年に向けて会社負担率が急激に上昇中。 |
| ③ 住宅基金 (INFONAVIT) | 従業員の住宅ローン原資として**一律5%**を拠出 | 利用の有無に関わらず全従業員分が必要。 |
3) RCV(年金)負担の激変(2023年改正)
2022年までは一律3.15%程度だった会社負担(Cesantía)が、法改正により「給与が高い人ほど負担率が上がる」仕組みに変わりました。
2030年には、最低賃金以上の層に対する会社負担率は最大11.875%に達します。これにより、従来の人件費予算(+30%設定)では不足する可能性があります。
誤解と理解
- 誤り:「基本給だけで保険料を計算すればよい」
→ Aguinaldoや休暇手当を組み込んだSBCで計算しないと、IMSS監査で追徴を受けます。 - 誤り:「社会保険料率は毎年同じだ」
→ RCV(年金)部分は2030年まで毎年上昇し続けます。中期経営計画でのコスト見積もりに注意が必要です。 - 誤り:「駐在員はメキシコの年金をもらわないから払わなくていい」
→ メキシコ国内で給与が発生している限り、加入と支払いは義務です(日墨社会保障協定による二重払い防止の特例を除く)。
チェックリスト
- SBCの計算に、Aguinaldo(最低15日分)や休暇手当(最低25%)が正しく組み込まれているか。
- 高額給与者について、SBC上限(25 UMA)で計算がキャップされているか。
- 2030年までのRCV負担増(最大11%超)を見越して人件費予算を策定しているか。
- 毎月のIMSS支払額(EMA/EBA)と、給与計算システムの算出額を突合しているか。
まとめ
メキシコの社会保険料は「SBC」という特殊な計算基礎と、「2030年までの負担増」というトレンドを理解することが肝要です。特に人件費の多い製造業などでは、わずかな料率アップが経営を圧迫します。正確なルール把握と予算化を進めましょう。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
関連記事:
リソース:
- メキシコ社会保険法(LSS)第27条(SBC)・第167条(RCV率)
