時短勤務制度と柔軟な労働時間管理の基礎

はじめに

多様な働き方に対応するため、メキシコでも時短勤務やフレックスタイムを導入する企業が増えています。しかし、メキシコ労働法(LFT)には日本のような「変形労働時間制(月単位での労働時間調整)」の概念が原則として存在しません。安易な導入は莫大な未払い残業代リスクを招きます。本記事では、柔軟な働き方を導入する際の法的制約と実務ポイントを解説します。

サマリー

  • 基本原則:いかなる勤務形態であっても、1日8時間(昼間)を超えた分は残業代の支払い対象となる。
  • 相殺禁止:「昨日2時間多く働いたから、今日2時間早く帰る(プラマイゼロ)」という運用は認められず、昨日の2時間分に残業代(200%)が発生する。
  • 時短勤務:所定時間を短縮することは可能だが、給与額が「日額最低賃金」を下回ることはできない。
  • 管理実務:柔軟な勤務であっても、LFT第804条に基づき始業・終業時刻の記録(勤怠管理)は必須である。

詳細

1) 法定労働時間の上限(LFT第61条)

シフト制やフレックスを組む場合でも、以下の「1日の上限」が基準となります。

  • 昼間勤務(06:00–20:00):8時間
  • 夜間勤務(20:00–06:00):7時間
  • 混合勤務:7.5時間

2) フレックスタイムの「落とし穴」

日本企業が最も誤解しやすい点です。メキシコでは「日ごとの精算」が原則です。

ケース日本の変形労働(フレックス)メキシコの労働法(原則)
月曜:10時間労働
火曜:6時間労働
合計16時間
(平均8時間で残業なし)
月曜:8時間+残業2時間(2倍払)
火曜:6時間(定時内)
→ 2時間分のコスト増

つまり、「時間の貯金(Bank of Hours)」をして後で相殺する運用は、厳密には残業代未払いとなります。フレックスを導入する場合でも、「1日8時間を超えない範囲」で始業・終業をずらす(スライド勤務)形式が安全です。

3) 時短勤務(Jornada Reducida)

育児や介護、学業のために所定労働時間を短くする契約です。

  • 賃金設定:労働時間に比例して給与を減額することは可能ですが、最終的な支給額が「最低賃金(Salario Mínimo)」を下回ってはなりません(LFT第85条)。
  • 法定給付:Aguinaldo(賞与)や休暇手当は、支払われた賃金をベースに計算されるため、結果的に比例減額となります。

誤解と理解

  • 誤り:「フレックス制だから残業代は出ない」
    誤りです。 1日の法定上限(8時間等)を超えて働いた事実があれば、制度名称に関わらず残業代請求権が発生します。
  • 誤り:「本人が早く帰りたいと言うので、昨日多く働かせた」
    → 本人の同意があっても、法的な残業代支払い義務(放棄できない権利)は消えません。
  • 誤り:「在宅勤務(テレワーク)なら時間は管理しなくていい」
    → テレワーク法(LFT第330条-A以降)でも、「切断する権利(休憩・退勤)」の保障と勤怠管理が義務付けられています。

チェックリスト

  • フレックス制度を導入する際、「1日の上限(8時間)」を超えた場合の残業ルールを定めているか。
  • 「残業時間の相殺(Time Banking)」を行っていないか(法的リスクの認識)。
  • 時短勤務者の給与が、最低賃金(日額)を割っていないか。
  • 日曜日に勤務させた場合、振替休日を与えたとしても「日曜手当(25%)」を支払っているか。
  • 勤怠記録(タイムカード等)を5年間保存しているか。

まとめ

メキシコの労働法は「1日単位」の規制が非常に強く、日本流の「月単位での柔軟性」を持ち込むと火傷をします。柔軟な働き方を取り入れる際は、「1日8時間を守るスライド勤務」を基本とし、超過分はコスト(残業代)として割り切る設計が必要です。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • メキシコ連邦労働法(LFT)第59条・第61条・第85条
  • STPS(労働省):労働時間管理ガイドライン
  • NOM-035-STPS(心理社会的リスク要因)