引当金の考え方|退職給付・貸倒・修繕引当の基礎

はじめに

メキシコで事業を行う企業にとって、将来の支出に備える「引当金(Provisiones)」は決算処理の基本項目です。退職給付、貸倒損失、修繕費用など、発生可能性の高く金額を合理的に見積もれる場合に計上します(NIF C-9)。本記事は基礎編として、会計(NIF)と税務(CFF)の要点に絞って整理します。

1. 引当金の基本概念(NIF C-9の要件)

  • 将来の義務が存在する
  • 発生可能性が高い
  • 金額を合理的に見積もれる

2. 代表的な引当金(基礎)

  1. 退職給付引当金(NIF D-3)
    雇用契約に基づく給付(退職金・年金等)。発生ベースで計上。
    仕訳例:Dr. 退職給付費用 / Cr. 退職給付引当金
  2. 貸倒引当金(売掛金の回収不能リスク)
    回収見込みに応じて、合理的な見積りで計上。税務対応が重要。
    仕訳例:Dr. 貸倒費用 / Cr. 貸倒引当金
  3. 修繕引当金(将来の大規模修繕)
    合理的に見積れる将来修繕に備えて計上。ただし税務は原則不算入(概説は後述)。 仕訳例:Dr. 修繕費 / Cr. 修繕引当金

3. メキシコ税務の基本視点(基礎の範囲)

  • 総論:多くの引当金は税務上すぐには損金算入できず、実際の支出発生時に控除するのが原則(CFFの一般的考え方)。
  • 貸倒関連の基礎補足:控除可否は支払期限からの経過期間(例:1年)や、少額債権の基準などの条件がある(詳細は実務編で扱う)。
  • 修繕引当金の税務:将来修繕に備える会計引当は原則損金不算入資本的支出(価値向上・使用可能期間延長)は資産計上、費用性支出は発生時に費用計上という区分が重要(CFF第31条の趣旨に整合)。

4. 会計と税務のズレ

項目会計(NIF)税務(CFF概観)
退職給付発生主義で引当計上(NIF D-3)原則、実際の支出時に控除
貸倒合理的見積りで引当控除には経過期間・証憑等の条件(基礎提示)
修繕合理的見積りで引当将来修繕の引当は原則不算入/資本的支出は資産計上

※ 具体的条件・数値基準は実務編で詳細解説予定。

5. 実務のポイント

  • 本社報告では「会計ベース」と「税務ベース」を分けて管理(連結パッケージで差異明示)。
  • 貸倒はCFDI・督促履歴・法的手続きなどの証憑整理を先行(控除可否の検討に必要)。
  • 修繕は資本的支出か費用かの判定フローを社内で共有。

まとめ

引当金は将来支出に備える会計上の重要科目ですが、メキシコ税務では控除タイミングや可否に制約があります。基礎としては、(1)会計は発生主義で引当、(2)税務は原則実支出時控除、(3)修繕は資本的支出との区分を押さえ、実務では証憑管理と本社報告での差異整理を徹底しましょう。

本記事は「日本企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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【リソース】

  • NIF C-9「Pasivos, Provisiones」
  • NIF D-3「Beneficios a Empleados」
  • Código Fiscal de la Federación 第31条(CFF第31条)