安全衛生規則の全体像|企業に求められる義務

はじめに

メキシコにおいて「安全衛生」は、単なる努力目標ではなく、NOM(公式規格)によって細部まで規定された法的義務です。労働省(STPS)の査察で不備が発覚すれば、高額な罰金や業務停止命令に直結します。本記事では、全企業に必須となる安全衛生委員会の設置、心理社会的リスク(NOM-035)への対応、および監査対策のポイントを解説します。

サマリー

  • 安全衛生委員会:従業員数に関わらず全事業所で設置義務があり、月1回の巡回点検と議事録作成が必須(NOM-019)。
  • NOM-035:工場だけでなくオフィスを含む全業種に対し、従業員のストレス(心理社会的リスク)評価と対策を義務付けている。
  • 労働省監査:STPSの査察官は、規定の書類(委員会記録や訓練実施証明)が「その場にあるか」を厳格にチェックする。
  • 罰則:違反1件につき最大5000 UMA(約54万ペソ)の罰金が科される可能性がある。

詳細

1) 安全衛生委員会(Comisión de Seguridad e Higiene)

NOM-019に基づき、労使同数のメンバーで構成される委員会を設置します。

  • 主な任務:
    事業所内の危険箇所(床の滑り、配線不良、非常口の視認性など)を点検し、事故を予防すること。
  • 必須アクション(監査対策):
    毎月(または四半期ごと)の巡回点検(Recorrido)を実施し、その結果を記した議事録(Acta)を必ず作成・保管してください。監査で真っ先に見られる書類です。

2) NOM-035(心理社会的リスク)

2019年から完全施行された規格で、職場におけるストレス、暴力、ハラスメント等のリスク管理を求めています。

  • 対象:製造業、サービス業、オフィスなど全ての事業所
  • 義務内容:
    ①予防方針(ハラスメント禁止等)の策定と周知
    ②従業員へのアンケート調査(リスク要因の特定)
    ③高リスク者へのケアや環境改善

3) その他の主要NOMと教育訓練(DC-3)

  • NOM-017(保護具):ヘルメットや安全靴などの支給記録。
  • NOM-030(予防サービス):安全衛生責任者の指名と診断レポート。
  • DC-3(技能証明書):フォークリフト操作や高所作業など、危険業務従事者には定期的な訓練と修了証(DC-3)の発行が義務です。

誤解と理解

  • 誤り:「うちはオフィスだけで工場はないから、安全衛生委員会はいらない」
    誤りです。 従業員が1名でもいればNOM-019の対象です(オフィスの転倒防止や避難経路確保など)。
  • 誤り:「NOM-035は『従業員のストレスをなくす義務』だ」
    → 正しくは「リスク要因を特定し、対策を講じる義務」です。ストレスそのものをゼロにする結果責任までは問われませんが、調査を怠ると罰金です。
  • 誤り:「監査が来てから書類を作ればいい」
    → 監査では「過去1年分の議事録」などの提出を求められます。バックデートでの作成は困難かつリスクが高いです。

チェックリスト

  • 安全衛生委員会(労使代表)の設置届(Acta de Constitución)はあるか。
  • 過去12ヶ月分の「巡回点検記録(Actas de Recorridos)」がファイリングされているか。
  • NOM-035に基づくアンケート調査を実施し、結果を分析しているか。
  • ハラスメント防止を含む「心理社会的リスク予防方針」を従業員に周知しているか。
  • 危険業務従事者の訓練記録(DC-3)は最新か。

まとめ

安全衛生対策は「事故が起きないようにする」だけでなく、「監査で指摘されないように証拠を残す」という事務管理の側面も重要です。NOM-019(委員会)とNOM-035(ストレス)は全企業の必須科目ですので、優先的に整備を進めましょう。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

関連記事:

リソース:

  • STPS(労働省):NOM-019(安全衛生委員会)ガイド
  • STPS:NOM-035(心理社会的リスク)適用ガイド
  • メキシコ連邦労働法(LFT)第509条