利益分配制度(PTU)の仕組みと従業員権利

はじめに

PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades)は、企業利益の10%を労働者に分配する憲法上の権利です。2021年の法改正で「支給額の上限(キャップ)」が導入され、計算が複雑化しました。本記事では、PTUの計算ロジック、上限の適用ルール、そして実務上の運用ポイントについて解説します。

サマリー

  • 原資:確定申告における課税所得の10%が分配原資となる(LFT第117条)。
  • 配分方法:原資を「労働日数」と「基本給与額」に基づいて50%ずつ按分する。
  • 上限規制:2021年改正により、従業員1人あたりの受取額には「給与3ヶ月分」等の上限(キャップ)が設けられた。
  • 期限:法人は5月30日までに支払う義務がある。

詳細

1) 計算の基本ステップ

PTUの計算は、全従業員を対象としたシミュレーションが必要です。

ステップ①:原資の確定
次確定申告書(Declaración Anual)上の課税所得の10%を原資とします。

ステップ②:50/50ルールでの仮配分
原資を2つの要素で分けます。

  • 第1要素(50%):全従業員の「総労働日数」に対する、各人の労働日数の割合で配分。
  • 第2要素(50%):全従業員の「総賃金額」に対する、各人の賃金額の割合で配分。

    ※ここでの賃金は「基本給(Cuota Diaria)」のみです。残業代や賞与を含めてはいけません(LFT第124条)。

ステップ③:個別上限(キャップ)の適用
ステップ②で算出された金額に対し、以下のいずれか高い方を上限として適用します(LFT第127条-VIII)。

  • 現在の給与の3ヶ月分
  • その従業員が過去3年間に受け取ったPTUの平均額

2) 対象者と除外者

原則として、年間60日以上勤務した全ての労働者が対象ですが、以下は除外されます。

  • 総支配人(Director General):会社の最高責任者(社長など)はPTUを受け取る権利がありません。
  • 新設企業:設立から1年目の企業は免除されます(LFT第126条)。

3) 実務上のプロセス(委員会について)

法的には、労使代表からなる「PTU混成委員会(Comisión Mixta)」を設置し、配分表を承認するプロセスが求められます(LFT第125条)。
実務上は厳格な委員会を設置していない企業も多いですが、2021年の「上限キャップ」導入により計算が複雑化したため、少なくとも「計算ロジックを従業員代表に説明し、合意の署名をもらう」というプロセスを経ておくことが、後のトラブル回避のために推奨されます。

誤解と理解

  • 誤り:「残業代も含めた年収ベースでPTUを計算する」
    誤りです。 計算基礎となる賃金は「基本給(Cuota Diaria)」のみです。残業代や手当を含めると過払いになります。
  • 誤り:「利益が出たが、キャッシュがないので支払わない」
    違法です。 資金繰りに関わらず、税務上の利益があれば支払義務が生じます。
  • 誤り:「社長(駐在員)もPTUをもらえる」
    総支配人(Director General)は対象外です。ただし、それ以外の役職の駐在員は対象となる可能性があります。

チェックリスト

  • 3月末の確定申告書をもとに、正確な原資(10%)を把握したか。
  • 配分計算において、賃金定義を「基本給(Cuota Diaria)」に限定しているか。
  • 2021年改正の「上限キャップ(3ヶ月分等)」を正しく適用しているか。
  • 総支配人(社長)や、勤務60日未満の従業員を計算対象から除外しているか。
  • 5月30日までに支払いを完了し、受領サイン等の証跡を保存しているか。

まとめ

PTUはメキシコ特有の制度であり、特に「上限キャップ」の計算においては解釈の齟齬が生じやすいポイントです。厳格な委員会設置までは難しくとも、計算の根拠を明確にし、従業員への説明責任を果たせる状態にしておくことが重要です。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • メキシコ連邦労働法(LFT)第117条〜第127条