メキシコの時短・フレックス実務|「週48時間調整」と「時給契約」の活用法

はじめに

メキシコで柔軟な働き方を導入する際、日本企業が直面するのが「厳格すぎる1日単位の規制」です。しかし、実務上は多くの企業が労働時間の調整や時短勤務を行っています。彼らは違法操業をしているのでしょうか? いえ、連邦労働法(LFT)第59条(時間の再配分)第83条(時給契約)を正しく適用することで、合法的に柔軟な運用を実現しています。本記事では、その「実務的なロジック」を解説します。

サマリー

  • フレックスの法的根拠:LFT第59条に基づき、「週48時間を超えない範囲で、日々の労働時間を再配分する」合意があれば、特定日の8時間超過を残業としない運用が可能。
  • 時短勤務の給与:通常の「日給制」ではなく「時給制(Pago por unidad de tiempo)」で契約することで、実稼働分の給与支給(日額最低賃金未満)が可能となる(LFT第83条)。
  • リスク管理:ただし、これらの運用には「個別の書面合意」が必須。なし崩し的な運用は未払い残業代請求のリスクとなる。

詳細

1) フレックス・変形労働の「実務解」

原則は「1日8時間超=残業」ですが、実務上は以下のロジックで柔軟運用を行います。

  • LFT第59条の活用(労働時間の再配分):
    法律は「土曜日の午後などを休むために、労働者と使用者は労働時間を週内で再配分(repartir)できる」と定めています。
    この条項を雇用契約書に引用し、「週48時間を超えない範囲で、始業・終業時刻を調整できる」と合意することで、日本式のフレックスに近い運用(月曜10時間、火曜6時間=残業なし)を正当化します。

2) 時短勤務と最低賃金の関係

「1日4時間のパートタイムでも、最低賃金(1日分)を払わなければならないのか?」という疑問への回答です。

  • 「日給制」の場合:
    1日いくらという契約の場合、たとえ短時間勤務でも法定最低賃金(Salario Mínimo)を下回ることはできません。
  • 「時給制」の場合(LFT第83条の活用):
    契約形態を「時間単位の支払い(Pago por unidad de tiempo)」とすることで、実働時間分の賃金支払いが可能です。
    この場合、トータルの受取額が日額最低賃金を下回っても違法にはなりません(ただし、時給単価自体は最低賃金を割らない設定が必要です)。

誤解と理解

  • 誤り:「口頭でフレックスを認めているから大丈夫」
    → 契約書にLFT第59条に基づく合意条項がない場合、裁判では「単なる残業(月曜の2時間超過)」とみなされ、割増賃金を請求されます。必ず書面化してください。
  • 誤り:「時短勤務者の給与を勝手に半分にした」
    → 既存のフルタイム契約(日給制)のまま給与を減らすのは不利益変更です。必ず「時給制」への契約変更合意書を取り交わす必要があります。

チェックリスト

  • フレックス制を導入する場合、雇用契約書に「LFT第59条に基づき、週48時間の範囲で時間を再配分する」旨の条項があるか。
  • 時短勤務者との契約は「日給制」ではなく「時給制」または「時間単価」を明記した形式になっているか。
  • 日曜出勤の振替を行う場合でも、日曜手当(25%)は別途支払っているか(ここは回避できません)。
  • 勤怠管理システムで「実労働時間」を記録し、週48時間を超えた分については確実に残業代を支払っているか。

まとめ

実務上の「柔軟な運用」と「違法状態」の境界線は、契約書に正しい根拠条文(第59条・第83条)が引用されているかにあります。なし崩し的な運用は避け、必ず労使合意という形で法的防衛線を敷いておくことが、経営を守るポイントです。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • メキシコ連邦労働法(LFT)第59条(労働時間の再配分)
  • LFT第83条(時間単位の賃金)
  • 最高裁判例(Jurisprudencia):時間単位契約における最低賃金の解釈