IVA(付加価値税)制度の仕組み|日本の消費税との違い
はじめに
メキシコの付加価値税(IVA:Impuesto al Valor Agregado)は、日本の消費税と類似する間接税ですが、課税対象の範囲・税率区分・仕入税額控除の成立条件に重要な相違があります。本稿では、制度の基本枠組みを日本制度と比較しながら整理します。
関連法令:Ley del IVA(LIVA)第1条・第2条・第5条・第9条、Código Fiscal de la Federación(CFF)第29条、日本消費税法 第2条・第30条
サマリー
- 課税対象:物品の譲渡・独立サービス・賃貸・輸入が原則課税(LIVA第1条)。
- 税率:標準16%、一部0%(輸出・一部の食品等)、免税あり(LIVA第2条・第9条)。
- 仕入税額控除:CFDI(電子請求書)の有効発行と対価の支払完了が基本条件(LIVA第5条、CFF第29条)。
- 申告:月次申告・納付(DIOT情報提出を含む)。日本は原則年次(中間納付あり)。
IVAの課税対象
メキシコのIVA課税対象は次のとおりです(LIVA第1条)。
- 物品の譲渡(Venta de bienes)
- 独立サービスの提供(Prestación de servicios independientes)
- 不動産等の使用・享受の一時的付与(Otorgamiento del uso o goce temporal de bienes)
- 輸入(Importación de bienes o servicios)
日本の消費税も国内取引が対象ですが、非課税・免税の線引きが一部異なります(例:住宅の貸付、医療、教育など)。
税率と非課税・免税・0%の整理
- 標準税率:16%(LIVA第2条)
- 0%税率:輸出取引、一定の食品・医薬品等(0%でも仕入控除は可能)
- 免税:教育・医療・土地の譲渡・住宅賃貸 等(LIVA第9条)。免税売上に対応する仕入は控除不可。
日本の消費税は標準10%(軽減8%)。輸出は『輸出免税』として仕入税額控除が認められるが、制度上はメキシコの0%税率(課税売上扱い)とは設計が異なります。
仕入税額控除の成立条件
仕入税額控除の基本条件は以下のとおりです(LIVA第5条、CFF第29条)。
- 有効なCFDI(電子請求書)が発行されていること(発行要件・記載事項の適合)。
- 対価の支払が完了していること(支払完了月に控除を主張するのが原則)。
- 課税売上に関連する支出であること(免税売上に対応する仕入は按分調整)。
補足:実務上は銀行振込など電子的支払手段の利用が求められるケースがあります(詳細は実務編で取扱)。現金や未払のままでは控除が否認されるリスクがあります。
申告・納付とDIOT
- 月次申告・納付:原則、翌月17日まで。(RFCの番号によって期限異なります。)
- DIOT:第三者との取引に関する情報(仕入先別のIVA等)を提出する付随義務。
月次申告では、当月の売上に対して顧客から受け取ったIVA(売上税額)と、仕入や経費の支払時に発生したIVA(仕入税額控除)を相殺して納付額を計算します。
日本との比較表(基礎)
| 項目 | メキシコ(IVA) | 日本(消費税) |
|---|---|---|
| 税率 | 16%(一部0%もしくは4%) | 10%(軽減8%) |
| 課税対象 | 物品・サービス・賃貸・輸入 | 国内取引(非課税・免税の範囲は独自) |
| 証憑要件 | CFDIの有効発行+支払完了 | 適格請求書(インボイス)保存 |
| 申告頻度 | 月次(+DIOT) | 原則年次(中間納付あり) |
| 免税・0%の違い | 0%は仕入控除可/免税は仕入控除不可 | 輸出免税はあるが制度設計は異なる |
よくある誤解と正しい理解
- 誤解:CFDIがあれば仕入控除できる。
→ 誤り。CFDIに加え支払完了が要件(LIVA第5条)。 - 誤解:0%税率と免税は同じ。
→ 誤り。0%は仕入控除可、免税は控除不可(按分要)。 - 誤解:日本同様、年1回の申告でよい。
→ 誤り。メキシコは月次申告・納付が必須(DIOTも)。
FAQ
- Q. CFDIは当月受領したが支払は翌月。控除はいつ?
A. 原則、支払完了した月に仕入控除が成立(LIVA第5条)。翌月の申告で控除を主張。 - Q. 輸入時に支払ったIVAは控除できる?
A. 輸入IVAは原則として控除可能(輸入CFDI/Pedimento等に基づく)。控除は申告で相殺、過大なら還付申請(実務編で詳細)。
まとめ
IVAは日本の消費税と似ていますが、CFDIの有効性+支払完了という控除成立条件と、月次申告・DIOTが運用上の大きな違いです。また、IVAの正しい理解には「証憑(CFDI)」「支払完了」「区分整理」「月次管理」という4つの実務要点を押さえることが不可欠です。これらを基盤に、日本との制度差を意識しながら、還付などの応用的な論点に進むことが大事になります。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。
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リソース
- Ley del IVA(LIVA)第1条・第2条・第5条・第9条
- Código Fiscal de la Federación(CFF)第29条
- 日本消費税法 第2条・第30条
