ISR法人税の基礎知識|課税所得と申告スケジュール
はじめに
メキシコの法人税(Impuesto sobre la Renta, ISR)は、企業活動において最も基本となる税目です。
本稿では、課税所得の計算方法と申告スケジュールを、日本との比較も交えて整理します。条文の根拠を明記し、誤解しやすいポイントを簡潔に補足します。
サマリー
- 税率:法人税率は原則30%(LISR第9条)。
- 課税所得:収益−必要経費−繰越欠損=課税所得(LISR第25条〜27条、第57条)。
- 繰越欠損:最大10年間控除可能(古い年度から順次)(LISR第57条)。
- 申告スケジュール:月次暫定申告+年次確定申告(翌年3月末)(LISR第14条、CFF第31条)。
- 証憑要件:経費控除には電子請求書(CFDI)が必要、場合により支払済みであることも条件(LISR第27条)。
課税所得の計算式
課税所得は以下の算式で計算されます:
課税所得 = 収益 − 必要経費 − 繰越欠損金 (LISR第25条〜27条、第57条)
- 収益:売上高や金融収益など。
- 必要経費:CFDIによる裏付けがある支出。税務上の要件を満たすことが条件。
- 繰越欠損金:最長10年間、古い年度から順に控除。
税率
法人税率は一律30%(LISR第9条)。日本の実効税率(約30%前後)と大きな差はなく、国際的に見ても平均的な水準です。
申告スケジュール
- 月次申告:原則翌月17日までに暫定ISRを計算・納付(LISR第14条)。
※RFCの番号によって期限異なります。 - 年次申告:翌年3月末までに確定申告(CFF第31条)。
月次で納めた税額と年次の確定額との差額を精算します。
よくある誤解
- 誤解:赤字の年は申告不要 → 誤り。赤字でも申告義務あり(LISR第14条)。
- 誤解:経費はCFDIさえあれば控除可能 → 誤り。一部の支出は支払済みであることが条件(LISR第27条)。
- 誤解:繰越欠損は自由に使える → 誤り。古い年度から順に控除(LISR第57条)。
まとめ
ISR法人税を理解するうえで重要なのは、(1) 税率30%、(2) 課税所得の算式、(3) 月次・年次の申告義務、(4) CFDI等の証憑管理です。これらは日本制度と大きく似ている部分もありますが、メキシコでは「電子請求書CFDI」と「支払済み要件」が強く関連する点が特徴です。さらに、繰越欠損金は最長10年間の利用制限があり、古い年度から順に控除するルールがあるため、長期的な利益計画と税務戦略を連動させることが求められます。
実務上は「CFDIの収集・管理」と「月次予納+年次確定の流れ」を一体として運用することが、日系企業にとっての安定的な税務コンプライアンスにつながります。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。
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リソース
- Ley del ISR(LISR)第9条・第14条・第25条・第27条・第57条
- Código Fiscal de la Federación(CFF)第31条
