退職手続きの基本ルールと必要書類
はじめに
メキシコで従業員が退職する際、最も重要なのは「いくら払うか」の計算です。退職理由によって、支払うべき金銭は「Finiquito(通常の清算金)」で済むのか、それとも高額な「Liquidación(解雇補償金)」が必要なのかが分かれます。本記事では、退職パターンの違いによる支払項目と、後々の訴訟を防ぐための実務手続きについて解説します。
サマリー
- 基本原則:どのような退職理由であっても、未払い給与や比例配分のボーナスなど「Finiquito(フィニキート)」の支払いは必須である。
- 会社都合:解雇など会社側の理由で契約終了する場合、Finiquitoに加えて「Liquidación(リキダシオン)」と呼ばれる高額な補償金を支払う義務がある。
- 勤続手当:自己都合退職の場合、勤続手当(Prima de Antigüedad)は勤続15年以上の従業員にのみ支払われる(会社都合なら年数不問で支払い)。
- リスク管理:自己都合退職であっても、後日の紛争を防ぐために「退職合意書(Convenio)」への署名と、CFCRL(調停センター)での承認手続きが推奨される。
詳細
1) 退職理由と支払うお金の種類
退職時の支払いは、以下の2階建て構造になっています。
| 退職理由 | ① Finiquito (清算金) | ② Liquidación (補償金) |
| 自己都合退職 (Renuncia Voluntaria) | 支払い必須 | 支払い不要 |
| 会社都合解雇 (Despido Injustificado) | 支払い必須 | 支払い必須 (3ヶ月分 + 20日分 + 勤続手当) |
| 正当理由解雇 (Despido Justificado) | 支払い必須 | 支払い不要 (※ただし立証責任は会社側にあり、ハードルは高い) |
2) Finiquitoの内訳
退職理由に関わらず、労働者が「すでに働いた権利」として受け取るお金です。
- 未払い給与(退職日までの日割り分)
- 比例配分のAguinaldo(年次賞与)
- 比例配分の有給休暇および休暇手当(25%)
- その他の未払い手当(貯蓄基金など)
- 勤続手当(Prima de Antigüedad):
※自己都合の場合は勤続15年以上の場合のみ支給対象。
3) Liquidaciónの内訳
会社都合解雇の際のペナルティです。
- 3ヶ月分の給与(憲法上の補償)
- 20日分×勤続年数の補償(復職拒否等の場合)
- 勤続手当(Prima de Antigüedad):
※会社都合の場合は勤続年数に関わらず(1年目でも)支給対象。
誤解と理解
- 誤り:「自己都合退職なら、辞表をもらえば手続き完了だ」
→ 後から「脅されて書かされた」と訴えられるリスクがあります。必ず「退職合意書(Convenio de Terminación)」を作成し、可能ならCFCRL(調停センター)で承認を受けるのが確実です。 - 誤り:「勤続1年目の社員が辞める場合、何も払わなくていい」
→ 最低でも在籍期間に応じたFiniquito(Aguinaldo等の比例分)の支払いは法的義務です。 - 誤り:「解雇したその場で現金を渡して帰らせる」
→ 現金手渡しは証拠が残りません。必ず銀行振込または小切手で行い、受領証(Recibo)にサインをもらい、CFDI(電子給与明細)を発行してください。
チェックリスト
- 退職理由(自己都合か会社都合か)を明確にし、支払項目(FiniquitoのみかLiquidación含むか)を決定したか。
- 勤続手当(Prima de Antigüedad)の計算において、自己都合退職者の勤続年数(15年以上か未満か)を確認したか。
- 退職者から自筆署名入りの辞表(Carta de Renuncia)を受領したか。
- 退職合意書(Convenio)を作成し、「会社に対して一切の債権債務なし」の文言を入れたか。
- IMSSの資格喪失届(Baja)を速やかに提出したか(遅れると保険料が発生し続ける)。
まとめ
退職手続きの不備は、元従業員からの不当解雇訴訟という最大のリスクを招きます。「立つ鳥跡を濁さず」にするためには、適正な金額(Finiquito/Liquidación)の計算と、合意文書による証拠保全が欠かせません。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
関連記事:
リソース:
- メキシコ連邦労働法(LFT)第47条・第53条・第162条
- PROFEDET(労働者防衛連邦検察):退職金計算シミュレーター
- CFCRL(連邦和解登録センター):退職合意手続きガイド
