試用期間と解雇規制の基本ルール
はじめに
メキシコでは一度雇用すると解雇のハードルが非常に高くなります。そのため、採用直後の「試用期間」の運用が将来の労務リスクを防ぐ鍵となります。特に、試用期間終了時の雇用打ち切りには法的に「委員会の意見」が求められる点が見落とされがちです。本記事では、連邦労働法(LFT)に基づく試用期間のルールと、解雇時の適正な実務手続について解説します。
サマリー
- 試用期間は一般職30日、管理職等180日が上限であり、延長や再設定はできない。
- 試用期間(Prueba)と初期研修契約(Capacitación)は併用不可。どちらか一方を選択する必要がある(LFT第39-C条)。
- 試用期間満了での解雇には、原則として社内の「教育訓練・生産性委員会」の意見聴取が必要である(LFT第39-A条)。
- 解雇通知書(Aviso de Rescisión)の交付は義務であり、従業員が受取拒否した場合は裁判所経由で通知しなければならない。
詳細
1) 試用期間(Periodo de Prueba / LFT第39-A条)
期間と上限:
一般労働者は最大30日。管理職・技術職・専門職は最大180日まで設定可能です。雇用契約書への明記が必須要件です。
終了時の必須プロセス(重要):
期間満了時に「能力不足」で契約を終了する場合、LFT第39-A条は「教育訓練・生産性混成委員会(Comisión Mixta de Capacitación, Adiestramiento y Productividad)」の意見を考慮することを条件としています。
【実務の現実と対策】
中小規模の企業では委員会が未設置のケースも多々あります。その場合でも、「社長の一存」で解雇するのはハイリスクです。
委員会がない場合の実務的防衛策として、少なくとも「直属の上司」と「人事責任者」の複数名による署名入り評価シートを作成し、客観的な合議を経て判断した証拠を残してください。
2) 初期研修契約(Capacitación Inicial / LFT第39-B条)
- 概要:
業務に必要な知識・技能を習得させるための期間です。一般職は最大3ヶ月、管理職等は最大6ヶ月です。 - 注意点(併用禁止):
LFT第39-C条により、試用期間と初期研修契約を連続して適用すること、および同時に適用することは禁止されています。「まず試用、だめなら研修」という運用は違法です。
3) 解雇通知の実務(Aviso de Rescisión)
正当な理由(LFT第47条:無断欠勤、暴力、背任など)があって解雇する場合でも、手続きを誤ると「不当解雇」となり補償金支払い義務が生じます。
- 通知義務:解雇理由と日付を記した書面(Aviso)を従業員に手渡す義務があります。
- 受取拒否時の対応:従業員がサインを拒否した場合、解雇から5営業日以内に労働裁判所(Tribunal Laboral)へ申し立て、裁判所から通知してもらう手続きが必要です。これを怠ると解雇は無効となります。
誤解と理解
- 誤り:「試用期間中なら、理由なく即日解雇できる」
→ 客観的な理由とプロセスの記録が必要です。LFT第39-A条が求める「委員会の意見」またはそれに準ずる「客観的評価記録」がない場合、不当解雇とみなされる可能性が高まります。 - 誤り:「試用期間の30日が過ぎたけど、まだ見極めたいから延長しよう」
→ 延長は違法です。30日を過ぎた時点で自動的に「無期雇用」の本採用となります。 - 誤り:「まずは試用期間で雇って、ダメなら研修契約に切り替えよう」
→ 併用・連続適用は禁止されています。入社時点でどちらの形式にするか決める必要があります。
チェックリスト
- 雇用契約書に、試用期間(または初期研修)の期間と条件が明記されているか。
- 社内に「教育訓練・生産性委員会」が設置されているか(従業員50名以上は設置義務あり)。
- 委員会がない場合、試用期間終了の判断に際して直属上司・人事担当者による評価記録と署名を残しているか。
- 解雇通知書(Aviso)のひな形を準備し、受取拒否時の裁判所手続きフローを把握しているか。
まとめ
メキシコでは「とりあえず試用で」という安易な考えは通用しません。法律は「委員会の意見」という第三者的なチェック機能を求めています。組織の実態に合わせて、委員会を設置するか、あるいはそれに準ずる強固な評価プロセスを構築し、不当解雇リスクを排除しましょう。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- メキシコ連邦労働法(LFT)第39-A条・B条・C条(試用・研修)
- LFT第153-E条(教育訓練・生産性委員会の設置義務)
