納税猶予制度と延滞税の基本知識
はじめに
資金繰りや突発的な納税遅延に直面した際、メキシコでは猶予・分割(CFF第66条・66-A条)や相殺(CFF第23条)の制度が活用できます。本稿は、実務の混乱を招きやすい「インフレ調整(Actualización)→延滞利息(Recargos)」の順序と、猶予の要件・手続を基礎レベルで整理します。
サマリー
- 延滞時の計算順序:まずインフレ調整を反映し、その後に遅延利息を計算(CFF第21条)。
- 猶予・分割:原則月次分割最大36回まで。担保(保証・不動産担保・銀行保証等)を求められるのが通常(CFF第66条・66-A条)。
- 相殺:還付・有利残高がある場合は相殺(CFF第23条)で延滞を圧縮できる。猶予と比較して手続が軽いことが多い。
- 遵守ポイント:期限・分割計画・担保・帳票(決定通知)を確実に保管。条件不履行時は許可失効や制裁(CFF第70条以降)リスク。
詳細
1) インフレ調整(Actualización)と延滞利息(Recargos)— 計算の基本
- インフレ調整(Actualización):公式インフレ係数により元税額を調整(CFF第21条)。
- 延滞利息(Recargos):更新後の額に対して月次利率(SATが毎月公告)で日割計算。
2) 猶予・分割の要件(CFF第66条・66-A条)
- 対象:確定した連邦税(附帯税含む)。
- 分割期間:原則最長36回。延長・例外は当局裁量。
- 担保:保証人、銀行保証等。税額・信用状況に応じて要求。
- 手続:理由書、資金繰り計画、担保資料を添付してSATへ申請。許可決定後は決定通知に従い毎期納付。
- 失効事由:分割未納、担保不備、虚偽申告等→残額の一括履行+延滞税・制裁の可能性。
3) 相殺(Compensación:CFF第23条)
- 趣旨:他税目の有利残高(Saldo a favor)を延滞・未納と相殺し、延滞負担を軽減。
- 実務:申告上の相殺手続/当局認定後の相殺。裏付けCFDI・台帳・計算根拠の保存が必須。
事例:分割12回と相殺の比較(概念例)
- 前提:元税額 500,000、遅延1か月、相殺可能残高 120,000。
- 相殺活用:まず 120,000 を相殺→残 380,000 に対してインフレ調整→延滞利息→分割12回。
- 効果:元本圧縮により延滞利息総額が低減。資金繰りと総コストの両面で有利になる場合が多い。
誤解と正しい理解
- 誤解:「延滞利息だけ計算すればよい」
正しい理解:必ずインフレ調整→延滞利息の順序。インフレ更新を飛ばすと過少計算。 - 誤解:「猶予は無担保で認められる」
正しい理解:多くのケースで担保要求。計画と担保設計が前提。 - 誤解:「猶予許可後は多少遅れても問題ない」
正しい理解:条件不履行で即時失効・追徴・制裁のリスク。
チェックリスト
- 延滞発生時にインフレ調整→延滞利息の順序で再計算しているか(CFF第21条)。
- 猶予申請書に理由・資金計画・担保資料を添付したか(CFF第66条・66-A条)。
- 相殺(CFF第23条)で圧縮可能な有利残高を確認したか。
- 許可後の決定通知・支払スケジュールを社内管理台帳に反映したか。
- 関連CFDI・決定通知・銀行受領書をDMSに保管し監査に備えているか。
まとめ
延滞時は「インフレ調整→延滞利息」の順序と、猶予・分割(最長36回)の前提である担保、および相殺の可否を同時に検討するのが実務の最短ルートです。許可後は決定通知の条件を厳守し、証憑を完全保存して追徴や失効リスクを防ぎましょう。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- CFF(連邦税法)第21条・第23条・第66条・第66-A条・第70条以降
- SAT公式:月次Recargos利率・猶予/分割ガイド
- 関連制度:DIOT/CFDI証憑要件(CFF第29条・第29-A条)
