福利厚生制度の基本|法定福利と法定外福利
はじめに
メキシコの福利厚生は、法定福利(Prestaciones de ley)と法定外福利(Prestaciones superiores/de empresa)で構成されます。前者はLFT(連邦労働法)、LSS(社会保険法)、INFONAVIT法等に基づく最低基準、後者は企業が競争力やエンゲージメント向上のために上乗せする制度です。本稿では、制度の全体像と導入・運用の基本を整理します。
サマリー
- 法定福利:IMSS(医療・年金・労災等)、INFONAVIT(住宅)、SAR/AFORE(退職積立)、有給休暇・休暇プレミア(初年12日+25%)、年次賞与Aguinaldo(年15日分以上)、利益分配PTU。
- 法定外福利:フードバウチャー、貯蓄基金(Fondo de Ahorro)、民間医療保険(SGMM)、生命保険、交通補助、柔軟勤務、教育支援、ウェルビーイング施策(NOM-035連動)。
- 企業対応:就業規則・契約へ支給要件や算定基礎を明記。課税・非課税の取扱いを税務上も整理することが重要。
- 証跡保存:付与台帳・計算根拠・従業員同意はLFT第804条・CFF第30条に基づき原則5年間保存。
詳細(制度の枠組みと実務)
1) 法定福利(最低基準)
- 社会保険(LSS):IMSS加入(疾病・出産・障害・労災・年金等)、雇用主は保険料を納付(詳細はNo.114参照)。
- INFONAVIT(住宅):住宅基金拠出。従業員の住宅ローン・積立の基盤。
- SAR/AFORE(退職):個人口座での退職積立の仕組み。
- 年次有給休暇(LFT第76条):初年度12日から勤続に応じて増加。休暇プレミア25%(第80条)を付与。
- 年次賞与Aguinaldo(第87条):暦年15日分以上。在籍按分を明文化。
- 利益分配PTU(第117〜):企業利益を従業員へ分配(2021年改正の上限方式に留意)。
2) 法定外福利(上乗せ設計)
- 食事系:フードバウチャー、社員食堂補助(支給条件・媒体・月額上限のポリシー化)。
- 金融系:貯蓄基金(Fondo de Ahorro)、貸付制度、積立奨励。
- 保険系:民間医療保険(SGMM)、生命・傷害、歯科・眼科等の補完。
- 働き方:柔軟勤務・テレワーク(LFT第330-A〜/NOM-037準拠)、子育て・介護支援。
- ウェルビーイング:NOM-035と連動したメンタルヘルス・EAP、運動・栄養プログラム。
- 学習・成長:学費補助、語学・資格、社内大学、キャリア支援。
3) 設計・運用の基本ポイント
- 整合性:法定を下回らないこと、同一条件での公平運用、差別禁止(LFT第2・3条)。
- 明文化:支給基準(資格・試用・在籍・欠勤控除・按分・支給月)、算定方法、CFDI区分を就業規則・契約へ。
- 税務補足:福利厚生の一部は課税所得、非課税枠があるため、ISRや社会保険料の計算に影響。税務上の整理を怠らないこと。
- コミュニケーション:従業員ハンドブック、内製FAQ、年初オリエンで可視化。
- モニタリング:採用・離職・欠勤・満足度と連動した費用対効果(ROI)を四半期レビュー。
4) 計算・支給の実務
- Aguinaldo:年15日分以上。中途入社・退職は日割り按分。
- 年休・プレミア:付与日数は勤続年数に応じて増、休暇取得分に25%を加算。
- PTU:法定の基礎利益を従業員間で配分(días trabajadosとsalarios基準)。
- 社会保険料:給与CFDIと整合し基数・控除を適正計算。
5) 記録・保存・監査対応
- 保存:付与台帳、CFDI、規程、同意、算定根拠、通知文、否認・異議の経緯を体系管理。
- 期間:LFT第804条・CFF第30条に基づき原則5年間保存。
- 個人データ:福利厚生関連情報はLFPDPPPに沿って最小化・アクセス制御・プライバシー通知。
よくある誤解と正しい理解
- 誤り:「Aguinaldoは業績次第でゼロも可」。
→年15日分以上は法定。削減不可(第87条)。 - 誤り:「休暇は6日から」。
→初年度12日へ引上げ済(第76条)。 - 誤り:「法定外は口約束でも良い」。
→規程・契約へ明記し、算定と在籍要件を透明化。 - 誤り:「PTUは任意」。
→法定制度。企業は分配義務(第117条〜)。 - 誤り:「福利の証跡は不要」。
→監査・紛争に備え、原則5年保存が必要。
チェックリスト(実務用)
- 基準確認:LFT/LSS/INFONAVITの最低基準を満たす。
- 規程整備:支給基準・算定方法・按分・退職時処理・不正防止を明記。
- 給与連携:CFDI区分、IMSS基数、INFONAVIT/SAR控除を整合。
- 税務対応:課税・非課税の区分を整理し、ISRや社会保険料に反映。
- 説明責任:入社時説明・年初オリエン・FAQの更新。
- 保存:付与・計算・同意・支給証憑を5年保存(LFT第804条/CFF第30条)。
- ウェルビーイング:NOM-035と連動し、過重労働や職場ストレスの予防施策を実装。
まとめ
「法定の遵守」×「上乗せの戦略設計」×「税務整理」×「明文化と可視化」×「証跡5年保存」が福利厚生の基本です。最低基準を確実に満たしつつ、自社の採用・定着・生産性に直結する法定外福利を設計すれば、コンプライアンスと競争力の両立が可能になります。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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- メキシコの福利厚生制度|法定福利と「節税効果」のある法定外福利の活用法
リソース:
- LFT第76条・第80条・第87条(年休・休暇プレミア・Aguinaldo)
- LFT第117〜第131条・第123条憲法(PTU)
- LSS(社会保険法)・INFONAVIT法・SAR/AFORE関連規定(社会保険・住宅・退職)
- LFT第804条(労務記録の保存)/CFF第30条(税務・会計資料の保存:原則5年)
- NOM-035-STPS/NOM-037-STPS(心理社会的リスク・テレワーク安全衛生)
