産休・育休制度の基礎と法定保障内容
はじめに
メキシコの産休・育休制度は、労働法(LFT)と社会保険法(LSS)の両面から理解する必要があります。「休む権利」は労働法で保障されていますが、「その間の給与(手当)」は社会保険(IMSS)から出るのが原則です。しかし、要件を満たさない場合は企業が全額負担するリスクもあります。本記事では、制度の概要とコスト負担の仕組みについて解説します。
サマリー
- 産前産後休業:女性従業員は、出産の前後に計12週間(84日間)の休業を取得する権利がある(LFT第170条)。
- 給与保障:要件を満たせば、休業期間中はIMSSから給与の100%が支給される(会社負担なし)。
- 父性休暇:男性従業員には5日間の有給休暇が義務付けられているが、これにはIMSS給付がなく全額会社負担となる。
- 解雇禁止:妊娠中および産休中の従業員を解雇することは、差別行為として厳しく禁止されている。
詳細
1) 産前産後休業(Maternidad)の仕組み
原則として「産前6週間+産後6週間」の計12週間です。医師の許可があれば、産前を2週間に短縮し、産後を10週間に延長するなど、合計12週の範囲で調整可能です。
2) お金は誰が払うのか?(重要)
産休中の給与(手当金)は、原則としてIMSSが支払いますが、厳格な条件があります。
- IMSSが払う条件:
産休開始前の12ヶ月間に、少なくとも30週間の保険料納付実績があること。 - 会社が払うケース(リスク):
もし上記の実績(30週)が足りない場合、IMSSは手当を支給しません。その場合、IMSSによる支払いが免責されるため、労働法上の原則に戻り会社が給与100%を全額負担する義務が生じます(LFT第170条およびLSS第103条)。妊娠中の女性を採用する際は、このコストリスクを認識しておく必要があります。
3) 男性の育休(Paternidad)と授乳期間
- 父性休暇(Permiso de Paternidad):
子供が生まれた(または養子を迎えた)男性に対し、5労働日の休暇を与える義務があります。この期間の賃金は全額会社負担です。 - 授乳期間(Lactancia):
女性従業員が復職後、最長6ヶ月間は「1日2回・各30分の休憩」または「1時間の時短勤務」を与える義務があります。この時間分の給与カットはできません。
誤解と理解
- 誤り:「産休中の社員には会社から給料を払わなくていい」
→ 原則はそうですが、IMSSの加入期間不足の場合は会社に支払い義務が回ってきます。 - 誤り:「妊娠したから解雇する」
→ 絶対にNGです。 妊娠を理由とした解雇は憲法違反(差別)であり、訴訟になれば100%負けるうえ、レピュテーションリスクも甚大です。 - 誤り:「男性の育休は無給でいい」
→ LFT第132条により「有給(con goce de sueldo)」と明記されています。
チェックリスト
- 妊娠報告を受けた際、IMSSの加入期間(30週要件)を満たしているか確認しているか。
- 産休に入る従業員に対し、IMSSで「産休証明書(Incapacidad)」を取得するよう指導しているか。
- 男性従業員から申請があった場合、5日間の有給休暇を付与しているか。
- 復職後の授乳時間(時短勤務)について、対象者と取り決めを行っているか。
まとめ
産休・育休は、IMSSの手続きさえ正しく行えば、会社の金銭的負担は最小限(男性育休を除く)で済みます。しかし、加入期間不足などのイレギュラーなケースでは会社負担が発生するため、事前の確認と予算化が重要です。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- メキシコ連邦労働法(LFT)第170条(母性保護)・第132条(父性休暇)
- 社会保険法(LSS)第101条〜第103条(産休手当の要件)
