源泉徴収ISR(Retención)とは?国外支払いの基本ルール

はじめに

メキシコから海外(日本を含む)の法人・個人へ支払う配当・利息・ロイヤリティ・役務対価には、条件を満たすと源泉徴収税(ISRのRetención)が発生します。まずは、どの支払が対象か日墨租税条約で軽減・免除できるか必要な証憑は何かを正しく押さえることが重要です。本稿(基礎編L1)は、対象判定→条約の適用可否→証憑収集→源泉・納付の流れを、実務で迷わない順番で整理します。

サマリー

  • 対象者・対象所得:メキシコ非居住者に対するメキシコ源泉所得が原則対象(LISR Título V)。代表例:配当/利息/ロイヤリティ/独立サービス。
  • 条約のカギ:日墨租税条約第10・11・12条で軽減・免除の余地。受益的所有者(Beneficial Owner)要件の確認は必須。
  • 証憑の柱:相手国の居住者証明、契約書、支払記録、そしてCFDI(電子請求書)(CFF第29条・第29-A条)。
  • 基本フロー:概念判定 → 源泉要否 → 条約適用可否 → 証憑収集 → 源泉計算・納付 → 明細交付。

対象と概念の整理(何に課す?)

  • 配当(Dividendos):メキシコ法人が分配する利益(条約第10条)。
  • 利息(Intereses):貸付・社債・預金等の利子(条約第11条)。
  • ロイヤリティ(Regalías):特許・ノウハウ・著作・ソフト使用料等(条約第12条)。
  • 独立サービス(Servicios independientes):コンサル・技術支援等。PE該当があると「事業利益」規定側で課税関係が変わる点に注意。

ポイント:「国内法(LISR Título V)の標準 → 条約で軽減/免除の順序」で判断する型を覚えると迷いにくい。

条約適用の基本チェック

  • 受益的所有者(Beneficial Owner):名義人=実質受益者かを確認(条約該当条)。
  • 居住者証明:相手国税務当局発行の居住者証明を取得・保存(条約適用の形式要件)。
  • PEの有無:受益者にメキシコPEがあり、当該所得が帰属する場合は条約の「事業利益」等で判定。

証憑と形式要件(何を残す?)

  • CFDI(電子請求書):XMLが正本。PDFは補助資料に過ぎない(CFF第29条・第29-A条)。
  • 契約書・支払記録:条約適用や受益的所有者判定の根拠。銀行振込明細などの支払証跡は保存。
  • IVAとの関係:ロイヤリティや役務でIVA論点が生じる場合、仕入控除はCFDI+支払済+課税関連性が要件(LIVA第5条)。

最低限の実務フロー

  1. 支払内容を契約で特定:配当/利息/ロイヤリティ/役務のどれか。
  2. 源泉地の有無:メキシコ源泉かを確認(LISR Título V)。
  3. 条約該当性:条約第10・11・12条、受益的所有者、PE有無をチェック。
  4. 証憑収集:居住者証明、契約、請求書、CFDI、支払記録。
  5. 源泉・納付・交付:概念別ルールで計算→期限内に納付→受益者へ明細交付。

具体例

  • 例1:日本親会社への利息:概念=利息 → 条約第11条で軽減可否 → 居住者証明取得 → 源泉計算・納付 → CFDI発行。
  • 例2:日本ベンダーへのライセンス料:概念=ロイヤリティ → 条約第12条確認 → 居住者証明・契約・インボイス → 源泉・納付 → 明細交付。
  • 例3:日本親会社への配当:概念=配当 → 条約第10条(持株割合・受益的所有者) → 居住者証明 → 源泉・納付。

誤解と理解

  • 誤解:条約があれば常にゼロ。
    →条件を満たす場合のみ軽減・免除。満たさなければ国内法で課税(条約10・11・12条/LISR Título V)。
  • 誤解:ロイヤリティは一律同率。
    →技術料・著作権・工業所有権・ソフト使用など概念により取扱いが異なる(条約第12条)。
  • 誤解:居住者証明は不要。
    →条約適用の形式要件。未取得なら国内法課税が原則。
  • 誤解:PDF請求書で足りる。
    →証憑の正本はXMLのCFDI(CFF第29条)。

チェックリスト

  • □ 支払の概念判定(配当/利息/ロイヤリティ/役務)を済ませたか。
  • 日墨租税条約の該当条(10・11・12)と受益的所有者要件を確認したか。
  • 居住者証明・契約・CFDI・支払記録を収集し、保存体制を整えたか。
  • □ 源泉税の計算・納付期限を管理し、受益者への明細交付を行ったか。

まとめ

国外支払の源泉ISRは、①概念判定②条約適用の二本柱で進めると迷いません。平時から居住者証明・契約・支払記録・CFDIを揃え、国内法(LISR Título V)と条約の要件を二重チェックすることで、漏れのない源泉・納付と証憑管理が実現します。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース