外国人駐在員の所得税課税の基本ルール
はじめに
メキシコに駐在する外国人(Expatriados)の給与課税は、滞在日数、給与負担先(本社か現地法人か)、そして日墨租税条約の適用有無によって大きく異なります。本稿では、特に基礎的なルールを整理し、居住者・非居住者の区分と課税の仕組みをわかりやすく解説します。
サマリー
- 課税範囲: 183日ルールや恒久的施設(PE)の有無で居住者か非居住者かを判定(LISR第9条、第153条)。
- 非居住者: 給与は源泉分離課税。
・125,900ペソまで非課税
・125,900ペソ超~1,000,000ペソ以下は15%
・1,000,000ペソ超は30%(LISR第154条) - 居住者: 累進税率(最大35%)適用。
- 条約適用: 日墨租税条約第15条により、一定条件下で免税可能。
- 証憑要件: 給与支払時にはCFDI de nómina発行が必須(CFF第29条・第29-A条)。
- 社会保険: メキシコ法人との雇用契約がある場合はIMSS加入義務あり。
課税範囲と居住性の判断
居住者か非居住者かは、滞在日数(183日ルール)と給与の負担主体で判断します。短期派遣であっても、給与がメキシコ子会社から支払われる場合はメキシコ課税対象となる点に注意が必要です。
税率と課税の仕組み
- 居住者: 累進税率(最大35%)。
- 非居住者: 給与は源泉分離課税。
- 125,900ペソまで:非課税
- 125,900ペソ超~1,000,000ペソ:15%
- 1,000,000ペソ超:30%(LISR第154条)。
条約適用
日墨租税条約第15条により、以下の条件を満たす場合には免税となります:
- 滞在が暦年183日以内
- 給与が日本本社から支給され、メキシコ法人に負担がない
この条件を満たさない場合、非居住者課税または居住者課税が適用されます。
証憑要件と実務
給与支払時にはCFDI de nóminaを発行する必要があります。また、現地法人との雇用契約がある場合には、IMSS(社会保険)への加入義務が生じます。
ケーススタディ
- 183日未満・子会社負担: 非居住者源泉課税(15%/30%)。
- 183日超・本社負担: 条約適用なし、課税対象となる可能性が高い。
- 183日以内・本社負担: 条約要件を満たせば免税。
よくある誤解と正しい理解
- 誤解:「183日未満なら無条件に免税」
正しい理解:給与負担先がメキシコ法人であれば課税対象。 - 誤解:「本社からの給与だから非課税」
正しい理解:メキシコ勤務がある限り課税対象となる場合あり。
チェックリスト
- 滞在日数(183日ルール)を確認したか?
- 給与の負担主体(本社か子会社か)を確認したか?
- 給与CFDI(nómina)の発行を行っているか?
- IMSS加入義務の有無を確認したか?
- 日墨租税条約の免税要件を満たしているか?
まとめ
外国人駐在員の給与課税は、滞在日数・給与負担先・条約適用の有無で判断されます。
非居住者の場合、LISR第154条に基づき「125,900ペソまで非課税/125,900~1,000,000ペソ=15%/1,000,000ペソ超=30%」の源泉分離課税が適用されます。
CFDIの発行やIMSS加入義務も含め、正確な証憑整備と条約要件の確認が不可欠です。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- LISR 第9条・第153条・第154条
- CFF 第29条・第29-A条
- 日墨租税条約 第15条(給与所得)
