労働時間と残業規制の基礎|法定時間・割増率・実務チェック
はじめに
メキシコの労働時間規制は日本よりも厳格であり、違反に対する金銭的コスト(割増賃金)が非常に高く設定されています。特に「サービス残業」という概念は存在せず、未払いは即座に労働訴訟のリスクとなります。本記事では、法定労働時間の区分と、日本とは異なる残業代計算(2倍・3倍ルール)の基礎を解説します。
サマリー
- 法定労働時間はシフト帯により異なり、昼間勤務の場合は「週48時間(1日8時間)」が上限である。
- 残業は原則として「1日3時間以内、かつ週3回まで(週9時間)」に制限されている(LFT第66条)。
- 週9時間以内の残業は時給の2倍、それを超える場合は時給の3倍を支払う義務がある。
- 管理職であっても、労働時間を管理されている場合は残業代の支払い対象となる可能性がある。
詳細
1) 3つの勤務区分(Jornada de Trabajo)
連邦労働法(LFT第60条・61条)により、時間帯によって3つの区分が定義されています。
- 昼間勤務(Diurna): 06:00〜20:00の間
→ 1日8時間・週48時間が上限 - 夜間勤務(Nocturna): 20:00〜06:00の間
→ 1日7時間・週42時間が上限 - 混合勤務(Mixta): 昼間と夜間にまたがる場合(※夜間が3.5時間未満であること)
→ 1日7.5時間・週45時間が上限
2) 残業代の「2倍・3倍」ルール
メキシコの残業代(Horas Extras)は、日本の「25%増し」とは比較にならないほど高率です。
- 最初の週9時間まで:
通常の時給の200%(2倍)を支払います。
(例:時給100ペソなら、残業1時間は200ペソ) - 週9時間を超えた分:
通常の時給の300%(3倍)を支払います。
(例:時給100ペソなら、残業1時間は300ペソ)
3) 残業時間の上限規制
LFT第66条は、残業を「非常時等の例外措置」と位置づけており、以下の制限を設けています。
「1日3時間以内」かつ「週3回まで」
これを超える(週9時間を超える)残業は、3倍の賃金支払い義務が生じるだけでなく、労働当局による是正勧告や罰金の対象となり得ます。
誤解と理解
- 誤り:「給料にみなし残業を含んでいるから払わなくてよい」
→ 契約書に明確な規定がない限り無効です。また、法定の2倍・3倍計算を下回ることは許されません。 - 誤り:「管理職(Confianza)は残業代ゼロで当然」
→ メキシコ最高裁の判例では、「出退勤時間を管理され、指揮命令下にある」場合は、肩書きに関わらず残業代請求権があると解釈されます。 - 誤り:「社員が勝手に残っているだけだから残業ではない」
→ 会社に残っている=労働時間とみなされます(黙示の指示)。不要な残業は厳格に禁止・退社させる管理が必要です。
チェックリスト
- 就業規則において、昼間・夜間・混合の区分が正しく設定されているか。
- タイムカード等の勤怠記録を保存しているか(未払いの立証責任は会社にある)。
- 週9時間を超える残業が常態化していないか(3倍払いのコスト増と法的リスク)。
- 管理職の出退勤管理を行っている場合、残業代リスクを認識しているか。
まとめ
メキシコの残業コストは極めて高く、安易な時間外労働は経営を圧迫します。まずは「週48時間」という基本枠を厳守し、例外的な残業には適正な割増賃金を支払うという、基本原則の徹底が求められます。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- メキシコ連邦労働法(LFT)第61条(労働時間)・第66〜68条(残業)
- STPS(労働社会保障省):労働時間に関するガイドライン
