予算会計と実績管理|差異分析の基礎知識

はじめに

企業経営では、計画と実績の差を見える化し、原因を把握することが重要です。このプロセスを支えるのが予算会計(Contabilidad presupuestal)差異分析(Análisis de variaciones)です。メキシコでは法定会計(NIF)に加え、経営管理の一環としてERP上での予算登録や部門別モニタリングが一般的です。本記事では、予算設定から差異分析までの基本的な流れをわかりやすく解説します。

サマリー

  • 予算会計: 事前に設定した目標値(Plan)を、勘定科目・部門別・期間別に管理。
  • 実績管理: 月次の試算表や会計データ(CFDI・ERP)を基に実際値を集計。
  • 差異分析: 予算と実績の差額を分析し、要因を「数量差・価格差・効率差」に分類。
  • 目的: 経営判断・原価管理・KPI運用の精度を高めること。

予算会計(Presupuesto contable)の基礎

予算会計とは、企業が年度初めに設定する「売上・費用・利益目標」を会計勘定と連動して管理する仕組みです。メキシコの企業では、NIF上の会計帳簿とは別に、ERP(SAP, CONTPAQi, NetSuiteなど)上に予算データを登録し、実績と対比します。

  • 単年度予算: 年間の売上・費用を月別に配分。
  • ローリング予算: 毎月1か月先を追加して更新する柔軟型。
  • 部門別管理: 販売・生産・管理などの部門ごとにKPIを設定。

実績管理(Control de resultados)

実績データは、試算表(Balanza de comprobación)CFDI(電子請求書)、さらには経費精算システムから収集します。月次で集計された実績値を予算と比較し、傾向を把握します。

  • 会計との連動: ERPで予算・実績を同一コード体系(勘定科目・部門コード)で管理。
  • 税務整合: CFDI・IVA申告・SAT電子帳簿とのデータ一致を確保。
  • 可視化: ExcelやBIツール(Power BI, Google Data Studio)で差異をグラフ化。

差異分析(Análisis de variaciones)の基本構造

差異分析は、実績と予算の「差の理由」を明らかにする手法です。主に以下の3つの観点から行います。

  • ① 数量差(Variación en volumen): 売上数量や稼働量の変化による差。
  • ② 価格差(Variación en precio): 単価・仕入価格・為替変動による差。
  • ③ 効率差(Variación en eficiencia): 作業時間・材料使用・固定費配分など、運用効率の差。

これらを分けて分析することで、「何がどれだけ原因か」を具体的に特定できます。

差異分析の実務ステップ

  1. データ収集: 試算表・CFDI・経費明細を集計し、月次の実績データを確定。
  2. 予算データとの統合: ERPやExcel上で勘定科目別・部門別に突合。
  3. 差異算出: (実績-予算)を算出。金額と比率の両方で把握。
  4. 原因分析: 数量差・価格差・効率差などに分類してコメント化。
  5. 報告と対策: 部門会議で報告し、次月のアクション(コスト抑制、販売強化など)に反映。

メキシコ実務における留意点

  • 会計基準との関係: 予算数値は内部管理目的のため、NIF開示義務はない。ただし、管理会計として税務監査や本社報告の補足資料となる。
  • 為替の影響: 外貨取引は為替換算差(NIF B-15)で差異を評価。
  • 税務との整合: CFDI金額と予算の不一致が続くと、IVA・ISR申告の調整対象になることがある。
  • ERP操作: CONTPAQiでは「Presupuestos」モジュールを活用して、会計科目ごとの予算登録が可能。

よくある誤解と正しい理解

  • 誤解: 差異分析は経理の仕事だけ。
    正解: 販売・購買・生産など、全ての部門が責任を持つ管理活動。
  • 誤解: 差異は原因追及だけのツール。
    正解: 改善アクションと次期予算策定に活かすのが本来の目的。
  • 誤解: 為替差や季節変動は考慮不要。
    正解: 外貨建取引・季節要因は差異要因として明示する。

チェックリスト(予算実績管理)

  • □ 勘定科目・部門コードの統一(会計・ERP・報告書の整合)
  • □ 試算表・CFDIベースでの月次実績更新
  • □ 予算との差異(数量・価格・効率)の分類とコメント記録
  • □ 為替影響・季節要因の注記
  • □ 部門別報告と改善アクションの実施

まとめ

予算会計と実績管理は、経営の「羅針盤」です。会計データと予算を一体管理することで、経営の進捗を早期に把握し、差異をもとに改善アクションを打つことができます。メキシコ実務ではCFDIやERPとの連動を意識し、データの整合性とタイムリーな差異分析を習慣化することが成功の鍵です。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • NIF A-3「Necesidades de información financiera」