メキシコ税務当局SATによる税務調査(Auditoría Fiscal)の仕組みと対応の基本
はじめに
メキシコの税務当局 SAT(Servicio de Administración Tributaria) は、納税者の申告や証憑を監督・検証する強力な権限を持ちます。税務調査(Auditoría Fiscal)は、机上調査・臨場検査・電子的検証といった手段で行われ、ISR(法人税)やIVA(付加価値税)の控除の妥当性を厳格に確認します。本稿では、監査の基本的な仕組みと典型的な対応の流れを整理し、日系企業が知っておくべき実務ポイントを解説します。
サマリー
- 監査の類型:CFF第42条に規定される3種類(机上調査=revisión de gabinete、臨場検査=visita domiciliaria、電子的検証=revisión electrónica)。
- 証憑の必須要件:ISR・IVAの控除には有効なCFDI、支払実績、課税関連性が必要(LISR第27条、LIVA第5条、CFF第29・29-A条)。
- 対応の流れ:通知→範囲確認→資料準備→提出→結果通知→不服申立て(CFF第117条〜)。
税務監査の類型(CFF第42条)
- 机上調査(Revisión de gabinete):SATが提出書類をもとに行う文書中心の審査。
- 臨場検査(Visita domiciliaria):企業の事務所や現場に立ち入り、帳簿・会計システムを直接確認。
- 電子的検証(Revisión electrónica):CFDIやDIOTを含む電子データを突合・自動チェックする方式。近年急増。
証憑と情報要求
- ISR関連:損金算入にはCFDIの有効性・実在性が必要(LISR第27条)。
- IVA関連:仕入税額控除には有効CFDI+支払済+関連性が要件(LIVA第5条)。
- 共通:CFF第29条・29-A条がCFDIの形式的要件を規定。
監査対応の流れ
- 通知受領:SATから公式通知を受ける。
- 範囲確認:対象期間・税目・論点を特定。
- 資料準備:CFDI、会計帳簿、契約書、銀行明細など。
- 提出:期限内に電子ポータルまたは直接提出。
- 結果通知:修正申告や追徴課税の指摘を受領。
- 不服申立て:CFF第117条〜の規定に基づき、Recurso de revocación(再審請求)などを利用可能。
よくある誤解と正しい理解
- 誤解:CFDIさえあれば控除できる
→支払済と課税関連性も必要。 - 誤解:電子監査は軽いチェックにすぎない
→ むしろ自動突合により厳格。 - 誤解:監査結果は必ず受け入れなければならない
→不服申立て手段がCFF第117条以降に規定。
チェックリスト(基礎編)
- □ CFF第42条に基づく監査の種類を理解しているか
- □ 全ての支払にCFDI+支払証憑を揃えているか
- □ DIOT提出内容とCFDIが整合しているか
- □ 通知から期限内に対応できる体制を整備しているか
- □ 不服申立ての手続き(CFF第117条〜)を把握しているか
まとめ
SATによる税務監査は、机上調査・臨場検査・電子的検証の3類型に大別されます。いずれの場合も、ISR・IVA控除の前提となる CFDIの適正性・支払実績・課税関連性 が厳格に確認されます。また、実務での最重要ポイントは以下の3点です。
- CFDI・支払証憑・DIOTの整合性を平時から確保すること
- 通知を受けた際に即応できる体制(資料整理・担当割当)を備えておくこと
- 不服申立て(CFF第117条〜)を含む防御手段を理解しておくこと
準備不足は追徴課税や罰金に直結するため、日常的な証憑管理と内部統制の徹底が、監査リスクを最小化する鍵となります。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。
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リソース
- CFF第42条・第117条・第29条・第29-A条・第82条(税務監査・不服申立て・CFDI要件・罰則)
- LISR第27条(損金算入要件)
- LIVA第5条(仕入税額控除要件)
- SAT公式ポータル:https://www.sat.gob.mx
