メキシコの雇用契約書の必須記載事項|労基法の観点から

はじめに

メキシコで人を雇う際、最も重要なのが「雇用契約書(Contrato Individual de Trabajo)」です。日本のように「入社時の辞令」や「口約束」で済ませることはできません。連邦労働法(LFT)は契約書に書くべき内容を細かく定めており、不備があると労務紛争で会社が負ける原因になります。本記事では、LFT第25条に基づく必須項目と、契約実務の基礎を解説します。

サマリー

  • 法的義務:労働条件を書面化した契約書の作成は、使用者の義務である(LFT第24条・25条)。
  • 必須項目:業務内容、労働時間、賃金、休日だけでなく、国籍や受益者(死亡時の受取人)の指定も必須となる。
  • 整合性:契約書の内容は、就業規則給与明細(CFDI)、社会保険(IMSS)の登録データと一致していなければならない。
  • 保存義務:契約書は雇用関係が終了してから原則5年間保存する必要がある(LFT第804条、CFF第30条)。

詳細

1) LFT第25条:契約書に絶対書くべきこと

法律で定められた以下の項目は、漏れなく記載する必要があります。

  • 当事者情報:氏名、国籍、年齢、性別、市民ステータス(既婚/独身)、住所、CURP/RFC。
  • 契約期間:無期雇用か、有期雇用(プロジェクト名や期間)か。試用期間の有無。
  • 職務内容:具体的な業務内容と勤務地。
  • 労働時間:始業・終業時刻、休憩時間。
  • 賃金:金額、支払い方法(振込等)、支払い頻度(週払い/半月払い等)。
  • 法定福利:有給休暇日数、Aguinaldo(年次賞与)、休暇手当など。
  • 受益者の指定:万が一従業員が死亡した場合に、給与や補償金を受け取る人物(配偶者や子供など)の名前。

2) 試用期間と初期訓練(LFT第39条)

採用直後の見極め期間についても、契約書への明記が効力発生の条件です。

  • 試用期間(Periodo de Prueba):一般職30日、管理職等180日まで。
  • 初期訓練(Capacitación Inicial):一般職3ヶ月、管理職等6ヶ月まで。
  • ※これらは併用不可です。どちらか一方を選んで記載します。

3) その他の重要条項

法的必須項目以外にも、リスク管理のために以下を入れることが一般的です。

  • 秘密保持義務(Confidencialidad):営業秘密や個人情報の漏洩禁止。
  • テレワーク条項:在宅勤務を行う場合の条件、費用負担、戻る権利など(LFT第330条関連)。
  • データ保護同意:個人情報保護法に基づく、データ利用への同意。

誤解と理解

  • 誤り:「契約書がなくても、給料を払っていれば雇用関係はある」
    その通りですが、会社が不利になります。 契約書がない場合、労働条件(給与額や労働時間など)について「労働者の主張が真実である」と推定されてしまいます(LFT第26条)。
  • 誤り:「とりあえず1年契約(有期)にしておけば安心だ」
    誤りです。 メキシコでは「無期雇用」が原則です。明確な理由(産休代替や特定プロジェクトなど)がない有期契約は、実質的な無期契約とみなされます。
  • 誤り:「英語の契約書だけでサインしてもらった」
    → メキシコの公用語はスペイン語です。紛争時に労働裁判所に提出する際、スペイン語版が正本となります。必ずスペイン語(または西英併記)で作成してください。

チェックリスト

  • 雇用契約書に、LFT第25条の必須項目がすべて網羅されているか。
  • 試用期間(30日/180日)を設ける場合、その旨と期間が明記されているか。
  • 契約書はスペイン語で作成され、従業員の直筆署名(または有効な電子署名)があるか。
  • 「受益者(Beneficiario)」の指名欄があり、記入されているか。
  • 退職した従業員の契約書も、5年間保存する体制になっているか。

まとめ

雇用契約書は、会社と従業員の約束事を記した最も基本的な文書です。「ひな形をそのまま使う」のではなく、自社の就業規則や実態に合わせてカスタマイズし、漏れのない契約を結ぶことが、将来のトラブルを防ぐ第一歩です。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • メキシコ連邦労働法(LFT)第25条(必須記載事項)
  • LFT第39条-A, B, C(試用・研修期間)
  • LFT第804条(保存義務)