メキシコの租税優遇制度(Incentivos Fiscales)の基礎知識|加速償却・地域優遇・年度控除
はじめに
メキシコの租税優遇制度(Incentivos Fiscales)は、企業が投資や雇用を促進するために利用できる重要な税務ツールです。主に恒久規定(LISR)、年度立法(LIF・附則)、政令(Decretos de estímulos fiscales)の三層で構成されています。会計・税務実務では、CFDIの適正発行(CFF第29条・第29-A条)や、損金算入・仕入税額控除の要件(LISR第27条、LIVA第5条)を満たすことが前提となります。本記事では、基礎編としてこれら制度の全体像と代表的な優遇措置をわかりやすく整理します。
サマリー(押さえるべきポイント)
- 法源の整理:恒久規定(例:加速償却 LISR第34条・第35条)/年度立法(例:LIF附則のクレジット)/政令(例:国境地域優遇)。
- 前提条件:CFDI適正発行、支払済・関連性(LISR第27条、LIVA第5条)。
- 代表例:加速償却、国境地域優遇(ISR軽減・IVA8%)、年度控除。
- 留意点:重複適用の制限や年度更新、政令の有効期間を必ず確認。
制度の全体像
- 恒久規定(LISR):経費算入や加速償却に関する恒久的ルール。例:LISR第34条・第35条に基づく有形固定資産の加速償却。
- 年度立法(LIF・附則):毎年の法律により定められる税額控除・クレジット。年度ごとに内容が変わるため注意。
- 政令(Decretos):地域・産業ごとの優遇策。例:国境地域優遇(ISR軽減20%、IVA軽減8%)。
代表的な税務優遇の例
1) 有形固定資産の加速償却(LISR第34条・第35条)
- 概要:通常より早いスピードで資産を償却でき、投資回収を加速できる制度。
- 前提条件:事業関連性、稼働、要件充足。CFDI発行・支払済証憑も必要。
- 実務ポイント:会計上の償却と税務上の償却を分けて管理し、税会差異を明確化。
2) 国境地域優遇(政令:Región Fronteriza)
- 概要:対象地域の企業が要件を満たす場合、ISRの軽減(例:20%)やIVAの軽減(8%)が適用されます。
- 前提条件:対象地域に所在すること、登録手続や雇用維持条件をクリアすること。
- 注意点:有効期間が限定されることが多く、毎年更新やSAT通知を確認する必要があります。
3) 年度ごとのクレジット・控除(LIF附則)
- 概要:特定産業や投資、研究開発に対する控除を年度ごとに規定。
- 実務ポイント:年度限りの措置が多いため、適用年度を必ず確認。
共通の要件と注意点
- CFDI発行:適正に発行・保存することが必須(CFF第29条・第29-A条)。
- 損金算入の要件:LISR第27条に基づき、事業関連性・実在性・支払方法の適正を確認。
- IVA控除の要件:LIVA第5条により、有効CFDI+支払済+課税関連性が必要。
- 重複適用の禁止:同一投資・費用で複数の優遇を同時に使えないケースがある。
よくある誤解と正しい理解
- 誤解:会計で償却を早めれば税務も自動的に軽減される。
正しい理解:税務上の償却率はLISR第34条・第35条に従う。会計と税務は別々に管理。 - 誤解:CFDIさえあれば必ず優遇が受けられる。
正しい理解:政令や年度法の条件を満たすことが必須。 - 誤解:国境地域の優遇は全国に適用される。
正しい理解:対象地域は限定され、適用条件も厳格に定められている。
チェックリスト
- 対象となる優遇制度の法源を特定したか。
- 適用条件・登録手続・有効期間を確認したか。
- CFDI・支払証憑・関連性を整備しているか。
- 同一支出への二重優遇を避けているか。
- 否認された場合の影響(加算税・罰金)を把握しているか。
まとめ
メキシコの租税優遇制度は、恒久規定・年度立法・政令の三層で構成され、活用することで投資回収や税務負担軽減に直結します。適用にはCFDI発行・支払証憑・事業関連性が不可欠です。まずは対象制度の位置づけを確認し、条件を満たす形で安全に活用しましょう。
本記事は「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。
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