メキシコの労働組合制度の仕組み|団体交渉の基本理解
はじめに
メキシコにおける労働組合(Sindicato)の環境は、2019年の労働法改正とUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の発効により激変しました。かつてのような「会社主導の形式的な組合」は通用しなくなり、実質的な従業員支持が求められます。本記事では、組合の結成要件、権利構造、そして企業が直面する新しい労使関係の基礎を解説します。
サマリー
- 労働組合の結成には、現役労働者20名以上の参加が必要である(LFT第364条)。
- 企業と「労働協約(CCT)」を締結するには、従業員の30%以上の支持を示す代表性証明書(Constancia de Representatividad)が必須となった。
- 労働者には「組合に参加する権利」と「参加しない権利」の双方が保障されており、強制加入(クローズド・ショップ)は違憲とされる。
- すべての組合手続きは、行政から独立した連邦和解登録センター(CFCRL)が管轄する。
詳細
1) 組合の設立要件(LFT第364条)
労働組合を結成するためには、少なくとも20名以上の現役労働者が必要です。以前は地方の労働局での登録が主でしたが、現在は連邦機関であるCFCRLへの登録が一元化され、審査が厳格化されています。
2) 団体交渉と代表性証明書(Constancia de Representatividad)
2019年の改革で最も重要な点がこれです。組合が企業に対して「労働協約(CCT)を結びたい」と要求(Emplazamiento a Huelga)するためには、まずCFCRLから「代表性証明書」を取得しなければなりません。
これを得るには、対象となる従業員の30%以上の支持(署名等)を集める必要があります。つまり、「従業員の支持なき組合」は交渉のテーブルに着くことすらできません。
3) 自由参加の原則
労働法は「結社の自由」を定めており、従業員は誰でも組合を作る・加入する権利を持ちます。同時に、「組合に加入しない権利」も保障されています。企業が雇用条件として特定の組合への加入を強制すること(排他条項)は禁止されています。
誤解と理解
- 誤り:「会社が選んだ穏健な組合と契約しておけば安心だ(保護協約)」
→ 現在は違法かつ無効です。従業員の投票による承認がない協約は認められず、外部の独立系組合が介入する隙を与えます。 - 誤り:「従業員が5人集まれば組合を作られてしまう」
→ 法的要件は20名以上です。小規模事業所では法的な組合結成はハードルが高いと言えます。 - 誤り:「組合費は給与から天引きしなければならない」
→ 従業員が書面で反対の意思を示した場合、組合費の天引き(チェック・オフ)を拒否できます。
チェックリスト
- 自社に労働協約(CCT)が存在する場合、それはCFCRLで適正化(Legitimación)されたものか。
- 外部の組合から「代表性証明書」の取得通知が届いた場合の対応フローを決めているか。
- 管理職や信頼関係に基づく従業員(Confianza)が組合活動に含まれていないか確認しているか(彼らは組合員になれない)。
- 従業員との対話チャネルを持ち、不満が外部組合へ流れるのを防いでいるか。
まとめ
メキシコの労働組合制度は「形だけの契約」から「実質的な民主主義」へと移行しました。企業は、組合を排除するのではなく、法令を遵守した上で従業員と直接的な信頼関係を築くことが、最大のリスク管理となります。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- メキシコ連邦労働法(LFT)第364条・第390条Bis
- メキシコ憲法第123条
