給与にかかるISRの仕組みと控除制度の全体像
はじめに
メキシコでは、従業員に支払う給与や賞与に対して会社が所得税(ISR)を源泉徴収し、税務当局へ納付する仕組みがあります。給与計算は単に「総支給額から税率をかける」だけではなく、法定の非課税枠を控除した課税ベースを算定し、税率表に当てはめて計算します。さらに、給与CFDIの発行、社会保険や州の給与税といった周辺制度への対応も欠かせません。本稿では、給与課税の基本構造をシンプルに整理し、実務の全体像をつかめるように解説します。
サマリー
- 対象と主体:雇用に基づく対価は給与所得(LISR第94条)。会社は源泉義務者(LISR第99条)。
- 計算の骨子:課税給与(総支給−法定の非課税部分)に月次表を適用して源泉税額を算定(LISR第96条)。
- 証憑と控除:会社の損金算入にはCFDI de nóminaの発行と適正支払が前提(CFF第29・29-A条、LISR第27条)。
- 周辺制度:社会保険(IMSS/INFONAVIT)と州給与税(ISN)は別制度で管理(LSS第15条、各州法)。
対象範囲と基本用語
給与所得(Salarios)は、従属性のある労務提供の対価(基本給、残業、ボーナス、手当など)です(LISR第94条)。法令で認められる非課税部分(例:Aguinaldo等の一部)は、UMAに連動した上限の範囲で課税ベースから控除します(同章諸規定)。
課税ベースと月次源泉のながれ
- 総支給の把握:基本給・手当・賞与などを集計。
- 非課税部分の控除:法定の非課税枠(UMA基準の上限)を差し引く。
- 課税給与の確定:課税給与=総支給−非課税部分。
- 月次表の適用:課税給与に月次の税率表・係数を適用してISR源泉税額を算定(LISR第96条)。
- CFDI発行と納付:CFDI de nóminaを発行し、源泉税を期限内に納付(CFF第29・29-A条、LISR第99条)。
会社側の損金算入と証憑
- 損金算入の要件:賃金の損金算入には、CFDI de nóminaの発行、契約・勤怠・支払の裏付け、法定控除・負担金の履行が前提(LISR第27条、CFF第29・29-A条)。
- 支払方法:銀行振込等の正規手段で支払い、給与台帳とCFDIの一致を確保。
事例
例:当月の総支給$20,000。Aguinaldoの一部がUMA基準の上限内で非課税$1,000。課税給与=$19,000。
月次表(LISR第96条)でISR源泉額を算出 → CFDI de nóminaを発行 → 期限内納付(LISR第99条、CFF第29・29-A条)。
社会保険と州税
- 社会保険(IMSS/INFONAVIT):雇用者負担は別制度で管理し、ISRとは計算根拠・提出先が異なる(LSS第15条)。
- 州の給与税(ISN):各州法に基づく地方税(税率レンジの例:概ね数%)。ISRとは別に申告・納付。
よくある誤解と正しい理解
- 誤解:CFDIが無くても給与は会社の経費にできる。
→CFDI de nóminaが前提。損金算入要件に該当(LISR第27条、CFF第29・29-A条)。 - 誤解:IMSSや州税はISRと同じ申告で処理する。
→各制度・各法令で別管理(LSS、各州法)。
まとめ
メキシコの給与課税は、以下の流れで理解すると整理しやすくなります。
- 対象範囲:給与所得=雇用に基づく労務対価(基本給・手当・賞与など)。
- 課税ベース:総支給額から、法定非課税枠(UMA基準に連動)を控除して算出。
- 計算方法:課税給与に月次税率表を適用してISRを計算(LISR第96条)。
- 証憑管理:CFDI de nóminaの発行が会社の損金算入の前提(LISR第27条、CFF第29条)。
- 周辺制度:社会保険(IMSS/INFONAVIT)や州の給与税(ISN)はISRとは別枠で管理。
実務では、「給与計算 → CFDI発行 → 税務申告・納付」という流れを毎月確実に回すことが基本です。社会保険や州税は別制度として並行管理する必要があるため、給与計算と税務・労務の両面を統合的に運用する体制づくりが重要です。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。
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リソース
- Ley del ISR(LISR)第94条/第96条/第99条/第27条
- Código Fiscal de la Federación(CFF)第29条・第29-A条(CFDI)
- Ley del Seguro Social(LSS)第15条(事業主の義務)
