決算整理仕訳の基本|初心者が押さえるべき流れ
はじめに
決算整理仕訳(Ajustes contables de cierre)は、期末に財務諸表を正しく表示するために必須のプロセスです。特にメキシコ子会社では、NIF(Normas de Información Financiera)に基づいた処理と、ISR法(所得税法)・IVA法(付加価値税法)との整合を意識することが重要です。本記事では、初心者が押さえておくべき決算整理仕訳の基本と、メキシコ特有の注意点を整理します。
決算整理仕訳の目的
- 収益・費用の期間対応(Devengo):発生主義に基づき、その期に属する収益・費用を正しく計上。
- 資産・負債の正確化:棚卸資産、減価償却、引当金などを実態に即して修正。
- 税務整合性:CFDI(Comprobante Fiscal Digital por Internet)との突合や、税務上の損金算入要件に対応。
主な決算整理仕訳と実務ポイント
1. 前払・未払の調整
- 前払費用(Gastos pagados por anticipado):保険料や賃料を按分して当期分だけ費用計上。
- 未払費用(Gastos acumulados):賞与・水道光熱費など未払分を計上。
新人がよく間違える例: 保険料1年分を全額費用処理してしまう。
2. 売上・仕入の計上漏れ
- 売上計上:当期の出荷やサービス提供に対応するCFDIが未発行の場合は要確認。
- 仕入計上:仕入CFDI未受領の場合、税務上は損金否認リスク。
3. 減価償却(Depreciación)
- NIFでは経済的耐用年数に基づいて計算。
- ISR法では資産ごとに定められた償却率があり、差異が生じる。
実務注意点: 会計と税務で償却費が異なるため、繰延税金資産・負債(NIF D-4)の検討が必要。
4. 引当金(Provisiones)
- 会計上:発生主義に基づき、将来発生が見込まれる費用を計上(例:賞与、退職給付)。
- 税務上:支払ベースで認められる場合が多く、損金算入不可となるリスクあり。
5. 棚卸資産評価(Inventarios)
- 期末棚卸により実地数量と帳簿残高を一致させる。
- 評価損(値下がり)はNIFでは認められるが、ISR法では原則損金否認。
6. 為替換算差額(Diferencias cambiarias)
- 外貨建債権・債務は決算日のレートで換算。
- 会計上も税務上も損益に算入されるため、仕訳が必要。
決算整理仕訳のチェックリスト
- 前払費用の按分処理は正しいか
- 未払費用(賞与・光熱費など)は計上されているか
- 仮払金・仮受金が残っていないか
- 売上・仕入のCFDIがすべて記録されているか
- 減価償却の会計・税務差異を把握しているか
- 引当金が税務否認対象にならないか確認したか
- 棚卸資産の実地棚卸が完了しているか
- 為替差額の換算処理を行ったか
日本本社との連結調整
- 償却方法の差異:日本基準やIFRSでは定額法を採用する場合が多く、メキシコ子会社の定率法との差異を調整。
- 引当金の扱い:日本基準ではより広く認められる場合があり、差異の洗い出しが必要。
- CFDI突合情報:連結監査時に重要な証憑として活用。
まとめ
決算整理仕訳は、期末決算の精度を高め、税務調整・連結報告に耐えうる財務諸表を作るための基本です。特にメキシコでは、CFDIとの突合・税務否認リスク・日墨基準差異といった要素を押さえることが重要です。
本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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【リソース】
・NIF C-4「Inventarios」/NIF Bシリーズ
・ISR法/IVA法/SATガイドライン(Contabilidad electrónica, CFDI 4.0)
(参照日:2025年9月)
