会計利益と課税所得の違い|税効果会計の理解に向けて
1. はじめに
「会計上の利益」と「税務上の所得」は一致しないことがよくあります。特に本社報告と税務申告の双方を行う日系企業では、差異の正しい理解と管理が欠かせません。本稿は入門として、差異の考え方と税効果会計の基礎を整理します。
2. 会計利益と課税所得の違い
- 会計利益:会計基準(NIF)に従って算出。経済実態の表現が目的。
- 課税所得:税務ルールに従って計算。公平な課税のための調整を含む(例:損金不算入)
例:接待交際費や一部引当金は会計で費用でも、税務では損金不算入(ISR法第28条)。CFDIがない支出は損金にできない、といった違いが生じます。
3. 差異が生じる代表例
- 認識時期の違い:減価償却の耐用年数・方法の差。
- 損金不算入:CFDI(電子請求書)がない等の要件未充足。
- 税務優遇:投資促進などの特別控除。
- メキシコ特有の一時差異:PTU(従業員利益分配)は、会計と税務で認識時期が異なりうるため、将来解消する差異(=一時差異)を生む典型例。
4. 税効果会計の基礎
- 一時差異:将来解消する差異。繰延税金資産・負債を計上して将来の税負担を見える化。
- 永久差異:将来も解消しない差異(例:一部の損金不算入)。当期税額に直接反映。
まずは「何の差異か」「将来解消するか」を区分できれば十分です(基礎編)。
5. 実務のヒント
- 調整フロー:(1)差異の洗い出し →(2)一時/永久の判定 →(3)繰延税金の要否判断 →(4)申告調整表へ反映。
- Excel管理:科目別に「会計額」「税務額」「差異」「区分(一次/永久)」「税率」「DTL/DTA計算」を1行で管理すると、説明・監査対応が楽になります。
まとめ
会計利益と課税所得は目的が異なるためズレが生じます。一時差異/永久差異の区別と、繰延税金資産・負債の基礎を押さえ、PTUなどメキシコ特有の論点を「まずは把握」しておくと、本社説明・申告調整がスムーズになります。
本記事は「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース欄
- Ley del ISR(メキシコ所得税法:第28条 等)
- NIF(Normas de Información Financiera)
