テレワーク制度の基本ルール|労働法上の位置づけ

はじめに

メキシコでは、ICTを用いて就業時間の相当部分を事業所以外で行う働き方テレワーク(Teletrabajo)として定義し、LFT(連邦労働法)第330-A〜およびNOM-037-STPSが詳細ルールを定めています。テレワークは労働時間管理、費用負担、設備・安全衛生、データ保護、監視の限度など多岐にわたる要件を伴います。本稿は、制度の枠組みと実務の基本を整理します。

サマリー

  • 適用範囲:LFTは、所定労働時間の大半(目安:40%以上)を事業所以外でICTにより行う形態をテレワークとして規律(第330-A〜)。
  • 会社の義務:機器の提供・保守、通信/電力等の必要費用の全面負担労働時間の記録切断権の尊重、安全衛生(NOM-037)、データ保護、就業規則・契約書への明記。
  • 労働者の義務:設備の適切使用、勤怠記録への協力、安全衛生上の自己管理、住所・作業条件の変更時の通知。
  • 監視の限度:モニタリングは業務目的・必要最小限・比例原則、プライバシーを侵害しない(LFPDPPP整合)。
  • 保存義務:就業規則・同意・勤怠・費用精算・安全衛生記録をLFT第804条CFF第30条に整合し原則5年間保存。
  • 公平性:ハイブリッド勤務では出社頻度や応答速度ではなく、成果・KPI評価に基づく公平な評価を行う。

詳細(制度の枠組みと実務)

1) テレワークの定義と導入

  • 定義(LFT第330-A〜):ICTを用いて所定労働時間の相当部分を事業所以外で遂行。
  • 合意と書面化:雇用契約・就業規則に就業場所・勤務形態(テレ/ハイブリッド)・時間・評価・費用負担・機器・情報保護等を明記。
  • 変更・可逆性:出社型⇔テレワークの変更は相互合意を原則とし、家庭暴力等の保護要請には配慮。

2) 労働時間・勤怠・切断権

  • 時間管理:始終業・休憩・中抜けをシステムで記録(打刻/ログ)。
  • 残業:LFT第66〜68条の上限・割増に従い、事前承認制を明記。
  • 切断権(Right to Disconnect):勤務時間外の連絡・応答義務を原則免除。緊急時対応は範囲・手順を規程化。

3) 機器・費用・就業環境

  • 機器提供:PC・周辺機器・必要ソフトを会社が支給または貸与。保守・更新の手順を規程化。
  • 費用負担:通信・電力等の必要費は全面的に会社が負担(定額補助/実費精算の方式・証憑・税務処理を明記)。
  • 就業環境:机・椅子・照明・温湿度・騒音などNOM-037の基準に沿って整備支援。

4) 安全衛生(NOM-037)

  • リスク評価:在宅作業場のチェックリスト、写真/自己申告、必要に応じ訪問(本人同意のもと)。
  • 予防措置:人間工学・休憩・視覚負荷・延長労働の抑制、NOM-035(心理社会的リスク)との連動。
  • 教育:災害時対応、機器の安全使用、サイバーセキュリティを年次訓練。DC-3等の受講証明を保存(原則5年間)。

5) データ保護・監視の限度

  • 個人データ:LFPDPPPに基づき、Aviso de Privacidad(プライバシー通知)で目的・取得項目・保存期間・ARCO権利を明示。
  • 監視:画面・カメラ・マイク等の監視は必要最小限、プライベート空間への過度な介入は禁止。ログはアクセス制御・マスキングで保護。
  • 機密情報:暗号化、VPN、多要素認証、持出し制限(印刷・外部保存)をポリシー化。

6) ハイブリッド運用と人事制度

  • 基準の明確化:週・月単位でのテレ比率、出社日、会議時間帯、オフィス席利用ルール。
  • 人事評価:成果・KPIベースの評価へ転換し、出社頻度や応答速度のみでの評価を禁止。
  • 公平性:テレワーク従業員と出社従業員の間で昇進・昇給・評価に差別がないよう配慮。
  • 福利厚生・安全配慮:妊娠・障害・介護等には合理的配慮を付与。

7) 記録・保存・税務

  • 保存:契約・同意・勤怠・費用精算・安全衛生・教育記録をLFT第804条CFF第30条に沿い原則5年間保存。
  • 税務:補助・精算は証憑管理とCFDI(給与)での区分表示を徹底。

よくある誤解と正しい理解

  • 誤り:「在宅なら残業規制は関係ない」。
    →時間外はLFT第66〜68条の上限・割増が適用。承認と記録が必須。
  • 誤り:「費用は自己負担が普通」。
    →通信・電力などの必要費は全面的に会社負担が原則。契約に明記。
  • 誤り:「監視は自由にできる」。
    LFPDPPPに沿い、目的限定・最小化・比例原則。私生活空間への過度な監視は禁止。
  • 誤り:「NOM-037は形だけのチェック」。
    →リスク評価・是正・教育記録まで含む。証跡保存(5年)が必要。
  • 誤り:「テレワークは出社より不利な扱いでも仕方ない」。
    →公平性を担保し、出社有無で昇進・評価差別は許されない。

チェックリスト

  • 規程・契約:勤務形態、就業場所、時間、切断権、費用負担(会社負担)、機器、監視範囲、情報保護を明記。
  • 勤怠:オンライン打刻、残業事前承認、休憩記録。
  • 機器・費用:貸与台帳、資産管理、補助/精算ルール、証憑保存。
  • 安全衛生:NOM-037チェックリスト、是正計画、教育(DC-3)、NOM-035連動。
  • データ保護:Aviso de Privacidad、アクセス権管理、暗号化・VPN・MFA。
  • 保存・監査:LFT第804条/CFF第30条に沿い契約・勤怠・費用・教育・評価記録を5年保存。
  • 公平性:ハイブリッド勤務者が不利な評価を受けないよう人事制度を調整。

まとめ

テレワークを安全かつ公正に運用する鍵は、「規程と契約」×「勤怠と切断権」×「費用・機器(会社負担)」×「安全衛生(NOM-037)」×「データ保護」×「公平な評価制度」の一体設計です。LFT第330-A〜と関連規範に整合し、証跡を5年保存することで、コンプライアンスと生産性の両立が実現します。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • LFT第330-A〜(テレワークの定義・使用者/労働者の義務・監視の限度・切断権)
  • NOM-037-STPS(テレワークの安全衛生:リスク評価・教育・就業環境)/NOM-035-STPS(心理社会的リスク)
  • LFT第66〜68条・第804条(時間外規制・資料保存5年)
  • LFPDPPP(民間部門個人データ法:プライバシー通知・ARCO権利)
  • CFF第30条(税務・会計資料の保存:原則5年)