国外関連者取引の届出義務と基本ルール

はじめに

本記事は、メキシコにおける国外関連者取引(移転価格)に関する届出・文書化・証憑整合の基礎を、実務担当者が迷わず運用できるレベルに整理。最低限おさえるべき法令根拠と提出期限、典型的な否認リスク、日次運用のチェック観点をまとめます。

サマリー

  • 法令の枠組み:LISR第76条・第76-A条は関連者取引の届出・文書化、LISR第179〜180条は独立企業原則と比較方法、CFF第29・29-A条はCFDI(電子請求書)の要件を定めている。
  • 提出物の三層化:ローカルファイル・マスターファイル・CbC(76-A条)。各ファイルは取引実態・機能リスク・比較分析・結論を備える必要。
  • 提出期限:法人の年次ISR確定申告は通常翌年3月末。三層文書は原則翌年12月末までの整備・提出(実務では最新RMFの指示に従う)。
  • 証憑整合:CFDI・契約・仕訳の三点一致が必須。CFDI不備は損金否認の主要因に。
  • 罰則リスク:提出遅延・不備はCFF第82条等の制裁や追徴の対象。まずは期限管理と書式適合を徹底。

詳細

1) 対象と独立企業原則

  • 関連者定義:LISR第179条。資本関係・支配関係・実質的支配を含む。
  • 独立企業原則と方法:LISR第180条。CUP、再販売価格法、原価加算法、取引単位営業利益法、利益分割法など。

2) 届出・文書化(LISR第76条・第76-A条)

  • ローカルファイル:取引別の機能・リスク・資産、比較対象、価格レンジ、結論。
  • マスターファイル:グループの事業・無形資産・資金調達の方針。
  • CbC報告:連結収益が一定額超の多国籍企業に要求(閾値確認要)。
  • 提出期限の運用目安:ローカル・マスター・CbCは翌年12月末を原則に準備(最新のRMF/規則で要再確認)。

3) 証憑・会計の整合(CFF第29・29-A条)

  • CFDI:発行区分・取引記載・税務属性が正しく、契約書・発注書・受入証憑と整合。
  • ERP仕訳:勘定科目・補助・相手先IDがCFDI・契約と一致。差異は四半期ごとに解消。

4) 期限と罰則

  • 年次ISR確定申告:通常翌年3月末
  • 三層文書:原則翌年12月末までに整備・提出(最新RMFで要確認)。
  • 制裁:提出遅延・不備・実在性欠如・価格否認は、CFF第82条等の罰金や追徴(延滞利息・インフレ調整)に発展しうる。

5) 事例(価格レンジ逸脱の是正)

親会社サービスフィー(年額2,000千)がベンチマーク・レンジ(1,600〜1,900千)を上回る場合、年次で値引きCFDIを受領し、ローカルファイルの結論に合致させる。CFDI・契約附属書・仕訳を同時修正。

誤解と正しい理解

  • 誤解:「社内価格なので証憑は不要」
    正しい理解:CFDI・契約・分析レポートの三点が必須(CFF第29・29-A、LISR第76条)。
  • 誤解:「年次申告さえ出せばOK」
    正しい理解:三層文書の整備・保管・提出が別途必要(76-A条)。
  • 誤解:「小額は対象外」
    正しい理解:重要性判断は可能でも、関連者要件は原則全件で適用対象。閾値や免除は最新RMFで要確認。

チェックリスト

  • 関連者範囲(LISR第179条)を年初に確定し、取引台帳を更新したか。
  • 比較分析の選定理由と価格レンジがローカルファイルに明記されているか。
  • CFDI・契約・ERPの三点が月次で一致しているか。
  • 年次ISR申告(通常翌年3月末)と三層文書(翌年12月末目安)の期限管理表を運用しているか。
  • 不備時の対応(値引きCFDI、補足契約、会計修正)フローを定義済みか。

まとめ

国外関連者取引では、期限・文書化・証憑整合の3点管理が最重要です。まずは関連者台帳と三層文書の年次計画を作成し、四半期ごとにCFDI・契約・ERPの突合でギャップを閉じる運用を徹底しましょう。罰則・追徴(CFF第82条等)を避けるためにも、最新のRMFやSAT指針で提出期限・様式のアップデートを定期確認してください。


本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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リソース:

  • LISR第76条・第76-A条・第179〜180条(移転価格・届出義務・独立企業原則)
  • CFF第29条・第29-A条(CFDI要件)、CFF第82条(罰則)