個人所得税(ISR)入門|居住者・非居住者と主要所得の課税・控除・申告

はじめに

メキシコの個人所得税(ISR)は、まず居住者か非居住者かを判定し、そのうえで所得の種類ごとに課税方法が決まります。給与だけでなく、事業、不動産(賃貸)、利子、配当、譲渡など、日常的に起こりうる所得を広くカバーします。本稿は基礎編として「判定→区分→控除→申告」の流れで全体像をわかりやすく整理します。

サマリー

  • 居住者: 世界所得に課税、累進税率~最大35%(LISR 9, 152)。
  • 非居住者: メキシコ源泉所得のみ課税。給与はLISR 153・154の区分税率、他の所得も区分ごとに源泉・申告ルールあり。
  • 所得の種類: 給与/事業/賃貸/利子/配当/譲渡 等で計算・源泉・申告が異なる。
  • 控除: 医療・教育・住宅ローン利息等は上限あり(LISR 151)。
  • 証憑: 控除や経費計上にはCFDI(電子請求書)が必須(CFF 29・29-A)。
  • 申告: 年次申告(通常4月末)、給与等は源泉徴収がベース(LISR 96, 99, 106, 118, 130, 140)。

1. メキシコの居住者・非居住者の判定(LISR 9)

  • 居住者の目安: 生活の本拠(恒久的な家)がメキシコ、または年間183日超滞在など。居住者は世界所得が対象。
  • 非居住者の典型: 短期滞在の駐在員・出張者、投資家、海外居住の個人等。メキシコ源泉所得のみ対象。

2. メキシコの所得の種類と基本ルール

2-1. 給与(Salarios:LISR 94, 96, 99, 153, 154)

  • 居住者: 累進税率で課税。雇用主が月次源泉、年次精算あり。
  • 非居住者: 源泉分離課税(例:LISR 154 の区分:一定額まで非課税、超過15%/1,000,000ペソ超30% 等)。条約で軽減の可能性。
  • 実務: 給与支払時はCFDI de nóminaの発行が必須(CFF 29・29-A)。

2-2. 事業所得(Actividades empresariales:LISR 106 ほか)

  • 個人事業やフリーランスの収入。収入-必要経費=課税所得。
  • 会計記録と有効CFDIの保存が前提。中間納付・年次申告が基本。

2-3. 不動産賃貸(Arrendamiento:LISR 118)

  • 家賃収入。一定の概算控除または実額経費で課税所得を計算。
  • 契約・家賃回収に伴うCFDIの発行・保存が必要。

2-4. 利子(Intereses:LISR 130)

  • 金融機関等からの利子。通常は支払時に源泉。年次で精算する場合あり。
  • 非居住者は所得の性格や条約により軽減・免税の余地。

2-5. 配当(Dividendos:LISR 140)

  • 法人からの分配。会社側の留保利益課税との関係に注意。
  • 非居住者への配当は源泉課税。条約で税率軽減の可能性。

2-6. その他の例:譲渡所得・免税所得

  • 譲渡所得: 株式・不動産の売却益など、特別計算や源泉があるケース(公証対応など)。
  • 非課税・非課税限度: 例:一定の退職所得・保険金・身分上の給付 等(LISR 93 の列挙)— ただし要件と上限を確認。

3. メキシコの所得税控除(LISR 151)— よく使うものと上限

  • 代表例: 医療費、教育費、補助的保険料、住宅ローン利息、年金拠出、寄付金 等。
  • 重要: 多くの控除は、年収の一定割合またはUMA基準の上限のうち低い方が限度。詳細は該当年度の規定で確認。
  • 証憑: 控除にはCFDIや非現金決済が前提(CFF 29・29-A)。

4. 申告と納付の基本

  • 年次申告(Declaración anual): 原則として翌年4月末までに提出(雇用のみ・一定要件で免除のケースあり)。
  • 月次源泉: 給与・利子・配当などは支払時に源泉徴収が基本。
  • 電子基盤: 申告・納付・通知はSATのオンライン(Buzón)で実施。

5. よくある誤解と正しい理解

  • 誤解:183日以内なら課税されない
    正しい理解:雇用契約や費用負担の状況によっては課税(条約15条の要件も要確認)。
  • 誤解:控除は領収書があれば無制限
    正しい理解:控除は上限あり。CFDIや非現金決済が条件。
  • 誤解:会社が源泉していれば確定申告は不要
    正しい理解:複数所得・高額医療控除 などで年次申告が必要な場合あり。

6. チェックリスト

  • □ 自分は居住者/非居住者どちらかを判定したか(LISR 9)。
  • □ 所得の種類(給与・事業・賃貸・利子・配当・譲渡)を整理したか。
  • 税率適用(累進/区分源泉)と条約の有無を確認したか。
  • 控除の上限と必要なCFDI・支払方法を把握したか(LISR 151/CFF 29・29-A)。
  • □ 年次申告の要否と期限(4月末)をカレンダーに登録したか。

まとめ

個人のISRは、居住区分→所得の種類→控除→申告の順で整理すると理解が進みます。給与だけでなく、事業・賃貸・利子・配当・譲渡など、それぞれに違う計算や源泉ルールがあり、控除にも上限があります。
まずは区分の判定CFDIの確保、そして年次申告の要否確認をルーチン化し、条文(LISR)と実務(CFDI・Buzón)をつなげて管理することが、税務リスクを抑える最短ルートです。

本記事は、「日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤」を目的に作成しています。

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