内部統制の基礎|メキシコ子会社に求められる仕組み
はじめに
内部統制(Control Interno)とは、会社の資産を守り、誤りや不正を防ぎ、正確で信頼できる会計・報告を行うための仕組みです。メキシコに進出している日系企業にとっても、現地子会社の内部統制は本社との信頼関係を保ち、監査や税務調査に強い組織をつくるうえで欠かせません。本記事では、COSOの基本構造と、メキシコの法律(CFF)や電子会計制度と関わる実務ポイントをわかりやすく整理します。
COSOに基づく内部統制の5つの要素
国際的なフレームワークであるCOSO(Committee of Sponsoring Organizations)では、内部統制を次の5つの要素で構成しています。
- ① 統制環境(Ambiente de control): 経営者の倫理観、ガバナンス体制、職務分掌。
- ② リスク評価(Evaluación de riesgos): 会社の業務や財務に影響するリスクを特定・分析。
- ③ 統制活動(Actividades de control): 承認手続、チェックリスト、ダブルチェックなどの運用。
- ④ 情報と伝達(Información y comunicación): 本社・子会社間での会計・税務情報の共有体制。
- ⑤ モニタリング(Supervisión): 内部監査・外部監査による継続的な検証。
CFFに基づく内部統制と電子会計(Contabilidad Electrónica)
メキシコの税法(Código Fiscal de la Federación, CFF)では、会計データの保存と電子提出が義務化されています。内部統制の観点では、次の対応が求められます。
- 法的背景: CFFにより、帳簿・仕訳帳・補助元帳の電子形式での保存・提出義務が定められている。
- 保存と提出: SATポータル(税務当局システム)でのデータ提出に備え、CFDIと仕訳を正しく対応づける。
- 監査リスク: 会計データとSAT情報の不一致は、税務調査や罰金の対象になるおそれがある。
CFDI管理とSAT照合のポイント
電子請求書(CFDI)の発行・受領・照合は、メキシコの内部統制における中心的なテーマです。
- 発行・受領: 各取引でCFDIを適時に発行・受領し、取引内容・金額・税率をチェック。
- SAT照合(Conciliación): SATポータルで定期的にCFDI一覧を確認し、未受領・重複・未キャンセルを早期発見。
- 税務リスク: CFDIがない経費は損金不算入となる可能性があるため、証憑管理を厳格に行う。
労務関連の内部統制(IMSS/REPSE/給与計算)
人事・労務に関する内部統制も重要です。特に、社会保険や外部委託業者の管理は税務・労働監査の焦点になります。
- IMSS・給与: 社員登録、給与計算、税・社会保険の正確な控除と支払いを管理。給与CFDI(CFDI-Nómina)の発行ミスを防止。
- REPSE: 外部委託サービスを利用する場合、委託先がREPSE登録済みであるか確認。未登録業者を使うと税務上の損金否認や罰金のリスクがある。
メキシコ子会社における内部統制の実務チェック
- 現金・銀行管理: 小口現金の棚卸と銀行勘定調整(BRS)を毎月実施。
- 固定資産・在庫: 実地棚卸と台帳の照合、滅失・劣化の記録保管。
- 職務分掌: 起案・承認・記帳・支払を分離し、権限規程を毎年更新。
- 電子証憑との整合: CFDI・銀行明細・仕訳帳を突合し、証拠性を確保。
まとめ
内部統制は、メキシコ子会社の財務の信頼性と透明性を守る「土台」です。COSOの5要素をベースに、CFFの電子会計制度、CFDI・SAT照合、IMSS・REPSE対応を組み込み、現地特有のリスクを管理しましょう。内部統制が機能すれば、監査・税務調査対応だけでなく、本社との信頼強化にもつながります。
本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。
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リソース:
- Código de Comercio(商法)
- Código Fiscal de la Federación(CFF)
- COSO「Internal Control – Integrated Framework」
