メキシコの労務行政機関の役割と必須システム一覧

はじめに

メキシコで労務管理を行う際、担当者は少なくとも5つ以上の異なる行政機関と、それぞれの専用システムを使いこなす必要があります。社会保険はIMSS、税金はSAT、労働条件はSTPSなど、管轄が複雑に絡み合っています。本記事では、各機関の役割、企業が対応すべき主要な手続き、および使用するWebシステム(ポータル)を体系的に整理します。

サマリー

  • 社会保険(IMSS/INFONAVIT):従業員の加入・喪失・保険料納付を管轄。使用システムはIDSE・SUA・SIPARE
  • 税務(SAT):給与明細の電子化(CFDI Nómina)と源泉徴収税(ISR)を管轄。Buzón Tributarioでの通知確認が必須。
  • 労働行政(STPS):安全衛生(NOM)や外部委託規制(REPSE)の監督官庁。定期的な査察(Inspección)を行う権限を持つ。
  • 労使紛争(CFCRL):2019年改革で設立された新機関。労働協約の登録や、裁判前の義務的調停を行う。

詳細

1) IMSS(メキシコ社会保険庁)

従業員の医療・年金・労災をカバーする最も日常的な機関です。

  • 主な義務:入退社から5営業日以内の異動届(Alta/Baja)、給与変更届、保険料の月次納付。
  • 必須システム:
    IDSE:加入・喪失等のオンライン届出。
    SUA:手元のPCで保険料を計算するソフト。
    SIPARE:銀行納付用のライン(Capture Line)を発行するサイト。
    Buzón IMSS:電子通知の受領(有効化が義務)。

2) INFONAVIT(労働者住宅基金)

住宅ローンの提供機関です。企業は「住宅掛金(5%)」の納付と「従業員ローンの天引き」を行います。

  • 主な義務:隔月の拠出、住宅ローン保有者の給与天引き(Amortización)。
  • 必須システム:Portal Empresarial(天引き額の確認や通知書のダウンロード)。
  • 外部委託報告:REPSE登録企業は、四半期ごとに契約状況を報告する「SISUB」の提出が必要です。

3) SAT(国税庁)

税務当局ですが、給与実務(Timbrado)の根幹を握っています。

  • 主な義務:給与支払いごとのCFDI Nómina(電子給与明細)の発行とスタンプ(認証)、所得税(ISR)の源泉徴収と納付。
  • 実務ポイント:従業員のRFC(納税者番号)や郵便番号がSATデータと一致しないと、CFDIが発行エラーとなり、給与が損金否認されるリスクがあります。

4) STPS(労働社会保障省)

労働法の番人です。企業のコンプライアンス(安全衛生、労働条件、外部委託)を監督します。

  • 主な義務:安全衛生委員会やNOM規格の遵守、REPSE(専門サービス)登録と更新。
  • 外部委託報告:REPSE登録企業は、四半期ごとに契約状況を報告する「ICSOE」の提出が必要です。
  • 監査(Inspección):抜き打ちまたは通報により事業所へ立入検査を行い、不備があれば罰金を科します。

5) 州財務局(Secretaría de Finanzas del Estado)

連邦政府ではなく、各州政府の管轄です。

  • 主な義務:給与総額に対して課される州給与税(ISN / Impuesto sobre Nómina)の申告・納付。税率は州により異なります(例:2%〜4%程度)。

誤解と理解

  • 誤り:「IMSSの手続きをしていれば、INFONAVITは自動的に連動する」
    部分的に誤りです。 加入データは連動しますが、住宅ローンの天引き通知などは企業が能動的にINFONAVITポータルを確認しないと見落とします。
  • 誤り:「アウトソーシングの報告はSTPS(ICSOE)だけでいい」
    誤りです。 REPSE業者は、STPSへの「ICSOE」と、INFONAVITへの「SISUB」の両方を四半期ごとに提出する義務があります。
  • 誤り:「SATのBuzón(私書箱)は経理が見ているから労務は関係ない」
    → SATからの「給与の源泉徴収差異」などの指摘もBuzónに届きます。労務担当者もアクセス権を持つか、経理と密に連携する必要があります。

チェックリスト

  • IMSSの3点セット(IDSE/SUA/SIPARE)の担当者を決め、電子署名(FIEL/e.firma)の期限を管理しているか。
  • SATおよびIMSSの「Buzón(電子私書箱)」を有効化し、通知メールの宛先を適切に設定しているか。
  • REPSE登録企業の場合、1月・5月・9月の「ICSOE(STPS)」および「SISUB(INFONAVIT)」報告をカレンダーに入れているか。
  • 事業所のある州の「ISN(給与税)」の税率と納付期限を把握しているか。

まとめ

メキシコの労務担当者は、単に給与計算をするだけでなく、これら複数の行政ポータルを操作するITリテラシーと、各機関の報告期限を守るスケジュール管理能力が求められます。管轄の違いを理解し、漏れのないコンプライアンス体制を構築しましょう。

本記事は、『日系企業が安心してメキシコで事業を展開できるための知識基盤』を目的に作成しています。今後も実務に役立つ情報を発信してまいります。

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